第117話 国際展覧会
「まずいっ、このままだとやられるぞ。旋回するんだ!」
彦根が叫んだ。
「だから喋っていると舌噛むよ」
「おい、おいおいおい」
レイレイはステアリングを固定したまま、ブレーキもかけずに猛スピードで、対物ライフルの銃口に向かって突っ込んでいく。隊員はじっくりと迫りくるエンジンルームを引き付け、確実に仕留めるために、その時を待ち構えていた。
これでは自ら蛇の口腔へと飛び込むカエル同然だ。
恐らく向こうは実勢経験なんかもかなり積んでいるだろう、本物の腕利きと言っていい。ブラフでなんとなる相手ではない。彦根はカットバックのように、モニターに映るレイレイと対物ライフルの銃口を交互に見た。
もう隊員の指が押し込まれる。彦根の目には銃口から発射される弾丸とマズルフラッシュが映った。
「旋回しろ!!」
「いいから黙って」
その弾丸はフロントピラーを掠めながら、背後に逸れていった。対物ライフルの弾速は秒速一〇〇〇メートルを超える。ステアリングをいくら素早く回しても避けられるものではない。ならあの精鋭部隊が外したというのか、それもあり得ないだろう。このような修羅場をいくつも潜り抜けてきた、それがSCTだ。その中でも正面からの狙撃を任されるということは、かなりの信頼を置かれている隊員のはず。そんな男がいったいなぜ……
すると男の手から対物ライフルが零れ落ちた。重量が十五キロもあろうものが、装甲車の展望塔からフロントガラスに突き刺さったのだ。
そして隊員のアーマースーツのヘルメットに亀裂が走った。そのまま男は展望塔から後ろに転がり落ちる。何者かによって狙撃されたのか。いったい誰が……
彦根がモニターを見つめると、苦悶の表情の中に笑みを浮かべるレイレイの姿があった。
「間に合ったみたいだね」
背後から銃声が聞こえてきた。それと同時に目の前を囲んでいた隊員たちが次々に倒れていく。装甲車のハッチを開け、中から出てきた隊員たちは皆、スポーツカーの頭上を見上げていた。
一体何が起こっているのだ。彦根の頭は状況の理解が追い付かなかった。だがそれと同時に外から覚えのある声が聞こえてくる。
「室長!!」
彦根が後部座席の窓から天を見上げると、そこにはドローンにしがみつく樽井と朱雀の姿があった。
日本エリアの端に配備されていた二人分ほどの大きさを誇るセキュリティドローンである。テロ対策もあり、このドローンには臨時用の重火器が搭載されていた。相手がヒューマノイドなら死ぬことはない、だがもしもテロリストがジェンダーなら殺すつもりだったのだろう。
ドローンを乗り捨てた二人がスポーツカーのルーフに飛び乗る。
だが目の前にはまだ装甲車の列が……
「日和、いけそうか!?」
窓から首を出した印波がルーフに向かって叫んだ。朱雀はドアの日差し除けにしがみつきながらも、必死に片手で空間上に浮かび上がったコンピューターデバイスを操作していた。
「よし行けた!」
朱雀がガッツポーズをした途端、正面に道が出来た。制御系統をクラッキングされた装甲車が押し込み合い、なんと真正面から突破することができた。朱雀は以前、警視庁をクラッキングしている。そのデータを隠して保管していた。そこから装甲車のシリアルナンバーを割り出し、制御を奪取したのである。
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