第115話 国際展覧会
警察組織において、公安課や外事課、国際テロリズム対策課などは全て、警備部という統括本部によって統べられている。有名なSATは警備部警備第一課に所属し、似た名前として挙げられるSITは刑事課に属している。そのような部隊はあくまでも警察の一機関に過ぎず、無論ながら警察の規則に則って、行動を行っている。
だが特殊犯罪機動部隊、通称SCTとはそのどれにも属さない。警備部の直轄組織で、内閣勅令で動く秘密部隊として都市伝説のように語られていた。つまりそれは警察本来の支配構造から逸脱した部隊。どの課にも属さず、公文書には決して残らない、存在が明かされていない部隊である。
サイバー庁でもそのような噂を耳にしたが、実在している話は聞いたことがない。だが数年前、一度サイバー庁の総務官にその質問を投げかけた時、口ごもった覚えがある。恐らく、サイバー庁は国家機関であるがゆえに、その隠蔽工作に一役買っていると考えいいだろう。そしてその総務官と直接的な関係を築いていたのが、警備部部長である東宮であることは周知の事実だ。
警備部はサイバー庁の力を十分に理解した上で、ホープとなり得る彦根を逮捕ではなく、抹殺しようしているということである。SCTはそのような組織だ。何をやっても、サイバー庁によって、それこそこのオンライン世界が集約する情報を握ることにうよって、許される。
恐らく、渾沌の真実は警備部とサイバー庁が築き上げてきた密約を揺るがすような特定機密情報なのだろう。「君たちは知りすぎた」と言わんばかりの弾幕が三人を襲っていた。
その時、印波が唐突に呟く。
「二人とも、生きてここを出るぞ」
「ええ、まだ死ねませんからね」
持永は深く頷いた。
「だけどこれじゃジリ貧だ。向こうは数十人規模。恐らくこれからもっと増えるでしょう。俺たちには武器もないし、早くどこか抜け道を探さないと……」
虚空からヘリコプターのプロペラの音まで聞こえてくる。これだけ大々的にやってどうやって隠蔽しようというのだろうか。まるで映画の世界だった。
すると印波が、二人の肩を持って言った。
「逃げる方法はある。だがそれには覚悟が必要だ」
「抜け道を知っているのですか」
すると印波は首を横に振った。彦根が眉をひそめる。
「正面突破だ」
「ここを突っ切るということですか……」
そう言って、見つめた先には弾丸の雨が降り注いでいた。
「確かに時間はない。だけどそれはあまりに無謀です」
「あれを使うんだ」
そう言って、印波が指したのは展示物だった。
日本の大手メーカーが開発した次世代電磁力スポーツ―である。
「あれなら多少の弾除けくらいにはなる。あの車は今年ジムカーナで起こった大クラッシュにも耐え、ドライバーも無傷で生還している。耐久性はお墨付きの日本車だ」
「それは俺も知っています。しかしどうやってあれを動かすんですか」
「僕に、いやあの娘に任せなさい……」
「あの娘……?」
彦根は首をかしげた。だがその一言が持永のある記憶が呼び起された。そういえば一人、いや人という単位が正しいのか分からないが、信頼に値する車泥棒を持永は知っていた。
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