第96話 人類開発センター

「ちょっと長話をし過ぎたようだね」


 警報音と共に渡り廊下のシャッターが動き出す。閉まり始めたシャッターは持永たちを閉じ込めようとしてきた。


「とにかく走るわよ」


 下りてくるシャッターの隙間をなんとか潜り抜け、再び窓のない廊下に戻ると、壁に反響した警報音がさらに大きく感じた。

 これで背後の逃げ道は失われた。この先に続く白い廊下も隠れることが出来そうな場所など一つもない。いやというほどに真っすぐと、何もない道だった。


「かなりヤバいわね……」


 全力疾走で出口も分からずに走り抜ける持永はそう呟いた。


「この先に解放のバベルとの連絡橋があるんだ」


「そこもどうせシャッターが下りてるわよ。これじゃあ針のむしろだわ」


 すると目の前にテーザーガンを持ったセキュルティロボットが現れた。まるで二人を誘い出したように、背後からも囲い込み、この狭い廊下で包囲された。

 持永は天井に目を向けた。だがそこにすら何もなかった。通気口の一つでもあれば、まだよかったがこの廊下は掴みどころすらもない。つるつるとした綺麗なコンクリート張りに逃げ場はないのだ。


「やるしかないわね」


 持永は決死の覚悟で拳を構える。こんなのは柄じゃない。だがいまは四の五の言っている場合ではなかった。

 テーザーガンの銃口が二人を捕らえ、手を頭の上に乗せるよう指示する電子音が鳴り響いた。


 ――手を頭の上に上げ、抵抗をやめなさい。


 二人は顔を見合わせると、再びセキュルティロボットに目を向けた。


 ――もう一度言います。手を頭の上に上げ、抵抗をやめなさい。


 機械的な音声に少し感情がこもったように思えた。それでも言うことの聞かない二人に対して、セキュルティロボットの口調はさらに強くなる。


 ――これが最後通告です。手を頭の上に上げ、抵抗をやめなさい。


 だが持永はその忠告を無視した。


 ――拘束します。


 セキュルティロボットのテーザーガンに電子のエネルギーが溜まる。発射まであと一秒もない。

 持永は壁に取り付けられていた監視カメラを睨みつけた。


 ――こ、拘束し、しまあああああ


 テイザーガンの光が段々と弱くなる。セキュルティロボットの電子音もまるで壊れたステレオのようになり、廊下に鳴り響いていた警報音も止まった。


「どうやら間に合ったようだね」


「これは……」


 なるようになれ、そんな無責任に身を投げたわけではない。だがもう一度、あの部屋に戻るくらいのことは覚悟していた。そこで沢渡の顔に唾でも吐き掛けてやろう。

 だが今もこうして、その未来は延命された。

 その事実に驚きながら、見つめると、朱雀は勢いよく頷いた。


「僕の半身が君の仲間を解放したんだ」


「樽彦なのね」


「だけど悠長にはしていられないよ。すぐに予備電源に切り替わる」


「そうね、急ぎましょう」


 二人は再び走り出した。

 解放のバベルへと繋がる連絡橋は鏡張りの扉によって守られていた。

朱雀がその扉に手をかざすと、自動で開く。その先が連絡橋となっていて、地上数十メートルの場所に壁と解放のバベルと繋ぐ橋がかけられていた。

 だが扉を跨いだ瞬間、開いていた扉は勢いよく閉まり、ロックがかかった。


「テロリストに加担するとは血迷ったか、朱雀日和」


 連絡橋の上に立ち、拳銃を構えながらそう言ったのは沢渡である。


「樽彦……」


さらにその沢渡の腕の中にはぐったりとした樽井の姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る