第83話 機密文書
樽井のソフトを使って破壊された文書の復元を行ったが、それでも尚、まともに復元さえたデータはあまりなかった。削除されてから時間が経っていたせいもあり、データも繰り返し上書きされたのだろう。だが数あるデータの中で唯一、文章の始まりから二、三行のみ復元できた文書があった。
恐らく、直近で削除されたデータである。どうやら何かの記録書らしく、タイトルには「file.45」と書かれていた。
その内容は実験の様子が記録された文書らしく、最初の一行目には「人間開発センターにて」の文字があった。
「人間開発センターって聞いたことある?」
「いえ、少なくとも俺は知りません」
「そうよね……レイレイいま取れる」
持永はそう言ってタブレットを取り出すと、レイレイが反応した。
「なにどうしたの……」
レイレイは寝ていたらしく、眠気眼をこすりながら出てきた。出てきてすぐにタブレットの中から姿を現し、長机の上に寝転んだ。
「AIでも寝るんですね」
「僕はメタファーじゃないからね」
「レイレイ、聞きたいことがあるの。この人間開発センターについて調べてくれない」
「いいよ!」
持永の頼みを聞きつけたレイレイは元気よく返事をして、姿を消した。
「それにしてもこれ、file.45ってことは、こんな不気味な文書が少なくとも44個はあるってことですよね」
「何をもって45なのか分からないけど、この怪しげな実験が国家単位で行われていたことは確かよ。公安が関わっているということは、そういうことだわ」
「本当にヤバいものを見てますよね、俺たち」
「今更、辞めたいって言っても辞めさせないわよ」
「分かってますよ。俺だって男です、覚悟は出来てます」
二人がそんな会話をしていると、肩にレイレイが戻ってきた。
「全っ然、なかった。普通は関連性のある単語で同じようなものが見つかるんだけど、これに関しては何一つの情報がないよ。まるで意図して隠されているみたい」
「やっぱりね……」
「でも、この文書を書いた人は分かったかもしれない」
レイレイはそう言って、プロジェクターに映し出された文書を指さした。
「本当に!?」
持永は驚きの声で聞き返した。
「人には文章を書くときに癖みたいのがあるんだよ。句読点の付け方だったり、文章を書くときにパターンがね。だから他の文章と照合することで、筆者が誰なのか推測する方法があるんだ。そしてこの見つかったのが、これなんだけど……」
レイレイはそう言うと、持永のEYEに文書を転送した。持永は転送されたファイルを開き、プロジェクターに出力すると、二つを並べて見比べた。
「これって……」
樽井はその文書を見て、驚いた。
「どうやら、しょっぱなから当たりを引いたみたいね」
レイレイが拾ってきた文章は学生時代、由良島天元が発表した論文だった。
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