第63話 隠密
持永は素早く移動するとロックされたダイヤル式の鍵に機材を取り付けた。本来の作業員にはダイヤルキーが知らされているが、持永たちは一個一個、突破しなければならない。持永が取り付けた器具はキーロックの暗証番号を入力せずに全て割り出す器具である。
キーロック内部の電磁波を読み取り、全てのパターンを高速で演算する。この器具は主にサイバー庁が長年使われていないシステムの復旧作業を行う時に用いるものである。
ものの数秒で玄関のロックは解除され、誰もいない庁舎へと侵入した。中は真っ暗で、監視カメラの赤いランプだけが光っていた。
一行はすぐに監視カメラの死角へと身を隠し、持永が小型端末を開いた。そこにはレイレイが映し出され、グッドポーズをしている。
「もう終わったの?」
「僕に掛かればこんなの一瞬だよ」
レイレイは誇らしげに言った。
監視カメラの無線ランに侵入し、持永があらかじめ作っておいた偽の監視カメラ映像とすり替えたのだ。
「やるわね」
「僕を舐めないでよね」
持永は頷くと、樽井の顔を見つめて言った。
「時間はあと一時間、それまでにここを出るわよ」
持永がそう言うと、樽井とレイレイは頷いた。
一行が目指したのは八階にある特別管理室である。ここは公安の中でも一部の人間しか入ることができない。
ここの警備は群を抜いて厳重だ。そもそもここに入る所を他の職員にすら見られてはならないという徹底ぶりで、その閲覧権が許された人間が誰なのかすら、知られていない。
ここには公安が集めた情報の中でも秘匿率が高く厳選されたもののみが集められる。全てオフラインで管理され、管理室の中では通信機器が使えなくなるジャマーが飛んでいる。つまりここでメモリーカードの使用は出来ない。ジャマーは電磁パルスの役割を果たし、全ての電子機器が使えなくなるのだ。
ではここのコンピューターはどのようにして動いるのだろか。
答えは簡単だ、特殊な金属基盤を使って稼働している。その基盤にはアウラジウムという特殊な人工金属が配合されていてるため、管理室全体に張り巡らされたジャマーが無効になる。いわばこの基盤は本来の導体金属と反対の性質を持っているのだ。
銅や鉄と言った一般的な導体金属とは反物質であるため、非常に扱うのが難しく、一般的に知られてはいない。
アウラジウムはこのような機密保持のためだけに作られた金属物質と言っても過言ではないだろう。
一行はそんな特別管理室に向かうため、エレベーターで八階のフロアに降りた。辺りを警戒しながらフロアの奥にある鉄扉へと近づく。
この先が公安の腹の中である。持永は網膜スキャンやヒューマノイドの生体番号セキュリティを突破するための秘策を取り出した。
「なんすかそれ」
バッグから取り出した丸い物体を壁に設置する持永。
「この中では電子機器が使えないことは知っているわよね」
「ええ、噂程度では」
「それじゃあ、またあとでね」
レイレイが端末から消えた。それを確認した持永は樽井に向けてこう言った。
「目に目にをよ」
持永が丸い物体に向けて、カードリモコンのスイッチを押した。
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