第10話

「ねえ、助手君」

「はい」

「ふと思ったのだけど、世界は今、どうなっているんだろうね?」

 博士は設計図をかく手を止めて、素朴な疑問を投げかける。

「この研究所には、窓がない。外の様子が分からないね」

「前に言ったでしょう、世界は今、危ないところになっているんです。安全のためにも、窓は無い方がいい」

「そうだけれども」

 助手の言う事ももっともかもしれないが、博士は引き下がらない。

「私は世界を滅ぼすために、こうして頭を使っている。その対象となる世界がどうなっているのか、確認する必要があると思うのだが、どうだろう」

「言ったでしょう、外は危ないんです。研究所の外には出ない方がいいですよ」

「うーむ……」

 博士はどこか違和感を覚え、思考をさらに進めてみる。自分は何か、大変な見落としをしている気がした。

「あ」

 気付いてしまった。なぜ今まで分からなかったのか、疑問に思うほど重大な事だ。

「ねえ、助手君」

「なんです?」

「この研究所の出入り口がどこか、知っているかい?」

 机の上を整理していた助手の手が、ぴたりと止まった。

「……どうしてそんな事、気になさるんですか?」

「だって、ほら……」

 考えてみればおかしな事だ。

「私達の食料や燃料は、どこから来ている? 電気やガス、水道は、文明の廃れたこの世界で、どうやって供給されている? 紙が貴重と言いながら、足りなくなった事は一度も無い。なぜなんだろう?」

 そして博士は、もう一度助手に訊く。

「ねえ助手君。世界は今、どうなっているんだろうね?」

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