第2話

「これは何だか分かるかね?」

 この日も博士は、助手に設計図を見せてきた。

「ええと……」

 助手はそれをざっと確認する。

「見たところ、大気に影響を与える装置のようですが?」

「その通りだよ! さすが私の助手君だ」

 博士は嬉しそうに助手の肩を叩く。

「やめてください」

 助手に冷たくあしらわれても、博士は気にしない。

「これはね、なんと、オゾン層を完全に破壊する装置なのだよ」

「はぁ……」

 助手のいまいちな反応にも落ち込まず、博士は作戦を説明する。

「君も知っての通りだが、オゾン層は大切なものだ。層が薄くなる事によって、酸性雨や紫外線の原因となる」

 それを使って、世界を滅ぼそうと言うのだ。

「どうだ、いい案だろう」

 胸を張る博士の前で、助手は首を傾げている。

「オゾン層を破壊すると、紫外線がそのまま地上に降り注ぐようになるんですよね?」

「ああ、そうだ」

「日焼けしますよ」

「それは嫌だな……」

 博士は目に見えて眉をしかめた。

「日焼けは女性の敵なのだよ。大敵で怨敵で不倶戴天なのだ」

「そこまで言います?」

「まあ、この案は却下だな」

 博士はその設計図を、机に投げ捨てる。

「というか博士、あなた天才なんだから、その頭脳を、この世界の復活のために使ったらどうです?」

 助手が訊いた。

「私はね、私が死んでも世界が続いていく事が、実に我慢ならんのだよ。私の頭だ。私のために使って、何が悪いのかね?」

 博士は答えた。

「まあ……それもそうですね。好きにしてください。僕はついて行くだけですから」

「うむ」

 嬉しそうにうなずいて、博士はまた、世界を滅ぼす方法を考えるのだった。

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