博士と助手と終末と

橘 泉弥

第1話

 突然、視界を遮られた。

「今日は何です?」

 さして驚きもせず、助手は博士を振り返る。

「ふふふ、よくぞ訊いてくれたね助手君」

 博士は嬉しそうに、紙に描いた設計図の説明をする。

「これは、世界中の酸素を二酸化炭素に換えてしまう機械なのだよ。すばらしいと思わんかね?」

「はぁ……」

 助手は適当に相槌を打つ。

「見ていろ、助手君! 私は今度こそ、この世界を滅ぼすぞ!」

「だから博士、世界はもう終わってるんですって」

 助手は博士にそう返す。

「人類はほぼ絶滅したし、高度な文明も、もうありません」

「しかしだ、助手君」

 博士は反論する。

「我々はこうして生きている。動植物も元気だし、世界は見事存続している。だから私は、日々努力を重ねているのだよ」

「そうですか」

 博士は設計図を眺め、ゆがんだ笑みを浮かべる。

「ふはは、この機械さえあれば、世界を滅ぼす事ができるぞ」

「でも博士」

 今度は助手が反論する。

「今は植物が元気ですから、あっという間に光合成されて、すぐ元の空気構成に戻ると思いますよ」

「そうか……」

「今は紙だって貴重なんです。無駄遣いしないでください」

「う、うむ……」

 こうして、博士と助手の平和な日々は、今日も過ぎていくのだった。

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