第9章 月と金星と大願成就

冒険録78 ヒロインが真の姿を現した!

 予期せぬゆづの出現で大混乱におちいった俺たちだったが、ゆづに身体を与えるというルナの発言に対してカレンが具体案を検討してくれたおかげで、ゆづをむかえ入れるための道筋が明確となった。それでカレンとの通話後も夕と相談を続けていたのだが、二人ともだいぶとねむくなってきて欠伸あくびが出始めている。皆中かいちゅう時計をカレンに預けたため正確な時刻は判らないが、もう日付も変わるころと思われ、そろそろ明日に備えて就寝しゅうしんしなければならない。


「さて……寝よう、か?」


 ならない、のだが……。


「……ウ、ウン」


 椅子いすに座る俺と夕はたがいに目を合わせ、次いで一台しかないベッドに目を向けると、再度目線をもどして見つめ合う。


「「っ……」」


 すると夕がポッとほおを染めるものだから、俺までつられて顔が熱くなり、あわてて目をらしてしまった。


「ヨ、ヨーシ。ネヨウ、ネヨウ」


 夕はそう言いながら、ギギギと音がしそうなロボット然とした動きで立ち上がる。先ほどは一緒に寝ることをあれほど喜んでいた夕だが、いざそうなるとテンパってしまうようだ。このような状態で、俺たちは果たして眠れるのだろうか……何が起きるか分からない異世界で、いざという時に寝不足で動きがにぶってしまうのはマズイ。


「……あー、やっぱ俺はゆかで――」

「だーめっ!!!」「かわのじになるのー!!!」

「お、おう……」


 それで再度妥協だきょうあんを提示してみるものの、娘達に一瞬で却下きゃっかされてしまった。どれだけ気恥ずかしかろうとも、これは絶対にゆずる気がないらしい。……そうなんだよなぁ、混浴風呂の時もそうだったが、夕はやると決めたら絶対やる子なんだよ。

 そうして頑固がんこ娘にヤレヤレと首をっていたところで、


「やはー! るながいっちばーん! なのー!」


 ルナがベッド上部の大きな枕の中央へ頭から飛びみ、ぼふっとまる。さらにクルリと仰向あおむけになって両手両足を広げると、「ままぱぱはやくー!」と急かしながらパタパタさせ始めた。……なるほど、川の字とは言うものの身体のサイズが違いすぎるので、せめてパパママの顔が真横に見えるよう枕の上で寝る訳か。

 それでルナがねだす前にと、俺はベッドの前でくついで上がると、け布団をめくって壁を背に胡座あぐらをかく。次いで後続のロボ夕が、かがんで靴に手をかけたところで「あっ」と声をらして身体を起こした。


「どした?」

「えと、お着替きがえしなきゃ」


 見れば夕は、先ほど風呂場で急速洗濯せんたく乾燥かんそうした私学制服を身に付けており、確かにこれでは寝心地ねごこちが悪いだろう。


「……ああ、バコスさんに借りた……アレ、な」


 夕はうなずきながら、俺の見つめる先――ベッドの背もたれに掛けられた薄手のナイトローブを手に取る。

 そうかぁ……このフワフリスケ、着ちゃいますか。攻撃力上げてきますか。そうですか。


「じゃ……後ろ向いてるな?」

「ん。お願いね」


 この部屋で着替えるしかないので、俺はベッドの上で身体を百八十度回転し、目の前の煉瓦れんが造りのかべを見つめる。

 後ろから夕がテーブルまで戻る足音が聞こえると、次いで静寂せいじゃくの中でシュルシュルと衣服を脱ぐケンゼンな音のみがひびき、俺の心拍しんぱく数が急速に上昇じょうしょうしていく。俺はあらぬ想像をしてしまわないよう、煉瓦の数を無心で数えて気持ちを落ち着かせる。心頭滅却しんとうめっきゃくすればケンゼンもまた健全!

 ややあって音が止んだところで、


「よ、よーしっ…………【おおきくなぁれぇ~】」

「……?」


 後ろから何やら魔法の詠唱が聞こえてきた。しかもこれは初めて聞く詠唱であり、大きくなれ……もしやサイズが合っていなくて服を調整してる? でも今の夕にそんな器用な魔法が使えるのか?


「お、お待たせっ! み、見て、いいよ……?」


 そうして疑問符ぎもんふかべていたところ、夕はナゼか緊張きんちょうした様子での声をかけてくる。それでベッドの上で身体を回して振り返れば……


「え? ちょ……えええええ!?」


 俺はあまりのおどろきに思わずさけんでしまった。

 なんとそこには、夕にそっくりな美しくも可憐かれんな女性が立っていたのだった。



【リア充力:0/485(+5)】

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