冒険録72 妖精さんは妖精さんではなかった!

魔素まそ加工技術を極めれば、素粒子そりゅうしの配列を――」

『なるほど、そういう視点も――』


 そうしてエリートリケジョの二人がマニア談義だんぎに花をかせていたところ……


「あっ……ごめんね、パパ、ルナちゃん?」


 夕は置いてきぼりになっていた俺達に気付き、まゆをハの字にして手を合わせた。


「ははは。まぁ夕が楽しければいいさ」

「ままわくわくなのー?」

「う、うん。カレンさんのお話がとっても面白くて、つい?」

『くくっ。うれしいことを言ってくれるね。わたしもだよ』


 こういう話で目をかがやかせるところを見ると、やはり夕は学者さんなんだなぁと思う。


『――さて。もうけるし、そろそろおいとましないとだ。もう聞きたい事はないかい?』


 スクリーン下の懐中かいちゅう時計を見れば十一時前、俺達はともかくお子様妖精さんはる時間だ。


「あの! さっきはちょっと聞きづらかったんですけど……」

『ふむ?』


 そこでとなりの夕がかない顔で切り出すと、


「あたしたちが日本に帰ると……ルナちゃんとはもう、会えなくなっちゃう……ですよね?」


 そう言ってお団子の上のルナを手元に運び、その小さな頭を愛おしげに指ででる。仮初かりそめながらも母娘おやことして過ごし、すでに別れがつらくなっているのだろう。

 だが……もし俺の予想が当たっているなら、それは杞憂きゆうになる。


「夕。多分だけど、ルナも一緒いっしょに帰れるんじゃないか?」

「そうなの!?」

『――ほほう』


 夕は嬉しそうに目を輝かせ、魔王様は少しおどろいた後、続けたまえとばかりに鷹揚おうよううなずく。


「それはすっごく嬉しいけど……妖精さんが日本に行っちゃったらマズイんじゃ?」

「妖精ならな?」

「えっ、それってもしかして……」


 俺は夕に向かって深く頷くと、ルナを指さしてこう告げた。


「ルナは俺達と同じく、日本から来た人間だ!」

「うっそぉっ!?」


 俺の大胆だいたんな予想に夕は驚きの声をあげると、まん丸のひとみを手元のルナに向ける。


「そうなの、ルナちゃん!?」

「るるる、るにゃは、ようせいなの! ににっ、にんげんじゃないのっ! ほんとだもん!」


 蒼玉色と金色の目オッドアイを愛らしくキョロキョロさせ、大慌おおあわてでみながら答えるルナ。とても分かりやすい。


「あはは……そっか。えーと、パパはなんで気付いたの?」

「名乗った時に別の名前を言いかけたことや、最初から俺らを知っていたこと、カレンをなーちゃん――と認識していたこと、そのあたりがずっと引っかかってたんだ。夕もだろ?」

「ええ」


 ルナには日本人としての本当の名前があり、なーこカレンとは日本で元から友達だったと考えると、ちょうど辻褄つじつまが合う。


「んで俺がピンと来たのは……ルナ、好きな食べ物は?」

「あまあまたまごやき! はんばーぐ! かれー! おれんじじゅーす!」

「――ということだ」

「あぁ~そう言えば……」


 この世界の人は魔法関連を除いて外来語を使わないが、ルナはごく普通ふつうに使っていたのだ。さらにこうも典型的なジャパニーズキッズの食嗜好しょくしこうとくれば……


「あとね、あとね……おふとゆばのみそしる!」


 ――えっ、今この子、お湯葉ゆば味噌汁みそしるって言ったか? ずいぶんしぶい好みの幼女だな!?


『くくっ。ルナ嬢、バレてしまったね?』

「ん~? そーなのー?」


 イタズラがバレた子供のような顔をするカレンだが、ルナはこのやり取りの意味を理解できていないようで、不思議そうに首をかしげている。


「あと残る疑問は、俺や夕を知っていたことだが……ルナ、どうしてなんだ?」

「あの、えとえと……ひっ、ひみちゅ……なの……いっちゃだめ、なの……」

「もしかしてお前も――いや、うーん」


 この幼いルナ相手なら、いくらでも情報を引き出すことができそうだが……こんな今にも泣き出しそうな顔をされては、まるでいじめているようですごく気が引ける。

 さらにルナがスクリーンへ飛んで行き裏にかくれてしまったので、どうしたものかとカレンに目を向けると、人差し指で小さくバッテンを作って返してきた。詮索せんさくはこのくらいにしてあげて欲しい、と言ったところか。


「あいよ、内緒ないしょな」

『よろしですし~♪』


 慧眼けいがんなカレンは大局を見てそう判断しているはずだし、今のところは知らなくても問題ないのだろう。時が来れば自ずとというやつで、のんびりと付き合ってあげるとしようか。そもそもの話、ルナが本当は何者だろうと、俺の命を救ってくれた大切な仲間には違いないのだから。




【448/448(+7)】




――――――――――――――――――――――――――――――――


第8章も半ばまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


リア充力やルナちゃんの秘密、とっくに気付いてたぜ! という方も、ビックリされた方も、ぜひとも【★評価とフォロー】をお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る