冒険録71 魔王様はサービス精神旺盛だぞ!

 こうしてリア充力の特性について色々と知ったところで、もう少しんで魔王様に聞いてみることにする。答えてもらえるかはさておき、ものは試しというやつで。


「カレン。率直に聞くが、このリア充力を使えば日本に帰れるってことか?」


 初めにカレンはルナの願いをかなえると良いと言っていたので、それによってまるリア充力こそが、俺たちの帰還きかんに必要となるものと予想してみたのだ。


『ご明察。流石さすがだね』

「おお、やっぱそうか」

「ああ~そういう意図でしたか……なるほどねぇ」

「でもこれで日本に帰れるな!」

「うん、やったねパパ!」


 帰還方法を知れて喜ぶ俺たちだったが……


『――ただ、一つ懸念けねんしている事があってね?』


 スクリーンに映るカレンが難しい顔をしてそう告げた。


『キミ達三人だけでは、帰るための力が足りないかもしれない。というのも、一つのたまちゃんが保有できるリア充力には限界があるのだよ』

「む……そうなのか」


 それが何時間分必要になるかは分からないが、三人分の最大量を合わせても足りないかもしれないと。


「つまり、他に誰か協力者が必要かもしれないって事ですね?」

『ああ。ただし、キミ達と信頼しんらいし合える者でなければ、当然ながらリア充力は溜まらないし共有もできないので、そうそう見つからないだろうけれど……』


 そうなると、リア充力を溜めることに加えて、人探しも頑張らないといけない訳か。宿題が増えてしまったな。


「えっと……カレンさんは、違うんです?」

『おやおや、ゆーちゃんにそう思ってもらえているなんて、うれしくてい上がってしまうね。……でもすまないが、キミ達と強固な運命のきずなで結ばれた者でなければならないので、わたし程度では少々荷が重い』

「そっかぁ、残念です」

『……そもそもキミ達は、わたしが魔王だということを忘れていないかな? ん~?』

「あはは……そうでした」


 カレンの魔王ムーブも形だけな気もするが……要は魔王なんかを頼っているようでは全然ダメダメと言いたいのだろう。手厳しいことだ。

 そこで俺も誰か居ないかと考えていたところ……ふと道中でのみょう出来事できごとが思いかんだ。


「もしかして、ヤスが該当がいとうしたりしないか?」

『くくっ、何だかんだ言って、キミも彼を気に入っているのだね? 嗚呼ああ、男の友情の美しきことよ』

「ええい茶化すな! ――ってのもな、あいつも魔法を使えたんだよ」


 制御せいぎょできずに大転倒だいてんとうをかましてくれたが、使えたことには違いない。


『おおっと……いやはや、何ともまあ規格外なことだね、彼は』

「マジそれな」


 ヤスは魔王様の予想をも上回る存在らしい。ほんとあいつ何なんだよ。


「で、そん時にリア充力は消費してはなかったけど……かと言ってヤスがこの世界の魔法を使えるとも思えんしさ?」


 使えるのは長年修行したエリートだけらしいので、いくらなんでもヤスは違うだろう。エリート(笑)が関の山だ。


『んーむ……おそらくだが、彼がルナ嬢とれ合うことで、キミ達のリア充力とは別枠べつわく恩恵おんけいもらっているのではないかな。どうせ彼のことだ、粗相そそうをする度にルナ嬢から体当たりでもされていたのだろう?』

「ははは、散々な?」


 まるで見てきたかのように言い当てるカレン、さす魔王まお

 つまり、ヤスはルナからツッコミを食らう度に強くなると……あいつらしい何とも奇天烈きてれつな成長方法だ。とりあえずドM力とでも呼んでおくか。


「そういやカレンもルナと仲がいいし、それで魔法が使えるんか?」

「なかよしなのー!」


 ルナが画面に近づいて、映るカレンの前を嬉しそうにくるくる飛び回る。


『ん? もしかすると多少の恩恵は貰っているかもしれないね。ただそもそもの話、わたしはこの世界の魔法をすでに習得しているのだよ』

「マジカ」

『ふふん。知識に貪欲どんよくなわたしが、魔法などというトンデモ面白いものを知らないまま放っておく訳がなかろう? この世界に来るなり、連日魔導書まどうしょを読みふけっていたものさ。まあ、ここまで習得が早かったのも、現代日本の自然科学の知識があってこそではあるがね?』

「ははは……」「うふふ、カレンさんらしいわね」「かーちゃんすごいのー!」


 流石は全国トップクラスの才女、正真しょうしん正銘しょうめいのエリート様だ。エリート(笑)とは格が違うな。


『くくっ。せっかくだ、余興に一つお見せしようではないか』


 そこでカレンは紅いひとみをギラリとかがやかせ、


『【魔孔Evil Hole】』


 格好良く詠唱えいしょうして指を鳴らせば、カレンの手元と夕の真横に小さな漆黒しっこくうずが発生した。次いでカレンが手元の渦に指を差し入れると、なんとこちら側の渦からその指がスルリと現れ……


『こちょこちょこちょ~♪』

「うわひゃぁっ!?」


 夕の脇腹わきばらをくすぐってきた。世にも恐ろしい魔王の遠隔えんかく攻撃こうげきである。


「もぉっ、カレンさん! イタズラしないの!」

『えへへ~、ごめんねぇ~』


 夕にしかられたカレンは、ぺろんと舌を出しながら、渦からき出た指をでろんとしおれさせて反省の色を見せた。世にも可愛らしい魔王の遠隔謝罪である。


「にしてもすっげぇなぁ……」

『ふふん、そうだろうとも』


 空間にあなを開けてはるか遠方に物理ぶつり干渉かんしょうする魔法……カレンはいとも簡単にやってのけたが、とんでもなく高度な魔法なのは確実だ。これはドヤ顔をするのもうなずける。


「それってさ、瞬間移動できるってことだよな?」

『あー、不可能ではないが……わたしが通れるサイズで空間を開く”魔門Evil Gate”となれば膨大ぼうだい魔素まそが必要になるし、それこそ使わなければ死ぬような状況でもないと割に合わないね。……金貨千枚は飛ぶかな?』

「やっば……」


 魔法もリア充力と同じく効果相応のリソースが必要になる訳で、法則を無視した都合の良い話はないということか。


『実は今の指先サイズでも結構するのだけれど、親愛なるお友達に少々見栄みえを張った余興を見せたかったのさ。ほら、忘れているようだがこれでも魔王なものでね? くふふ♪』

「そりゃどうも」


 何ともサービス精神の旺盛おうせいな魔王様なことで。


『それで今は、政務の合間に魔法と工学の融合ゆうごうについて研究を進めているよ。――そうそう! 見たまえよこれを! この美しいジェットフォルムを!』


 カレンは鼻息あらくそうさけぶと、森で飛び去った際にかたから出てきたジェットをわきから取り出し、ズズイと見せてきた。……ああ、いやな予感がするぞぉ!


『技術力が数百年は遅れているこの世界でも、魔法を応用すればこのレベルの流線型りゅうせんけい精密加工ができるのさ! しかも魔素という極めて高純度のエネルギーが存在し、それを凝縮ぎょうしゅくした魔晶石の体積エネルギー密度は現代技術のすいくしたリチウムイオン電池すら軽く凌駕りょうがする四百キロワットパーキログラム相当を計測! 信じられるかい!? さらにだよ! 従来のジェットエンジンによるエネルギー変換へんかん効率はせいぜい五割なのは当然キミも知るところかと思うが、この鋭意えいい開発中の魔動まどうモーターが完成を見れば、なんとなんと九割九分をえると予測され、夢の駆動くどう機構が――ってキミぃ、聞いているのかい!?』

「だぁもう分かったから!」


 またメカマニアによるメカ自慢じまんが始まってしまった。カレンはたまにこうしてみょうなスイッチが入ってしまうのだが、しがない男子高生の俺には付いていくことも止めることもかなわない。是非ぜひもないね。

 それでマシンガントークではちの巣にされている俺は、あきれ顔でとなりの夕へ救援きゅうえん求むの視線を送るが……


「す、すごいわ……この魔素技術を応用すれば、未来でも実現できてないあの夢の――」

『そうだろう、そうだろう! やはりゆーちゃんは話が分かるね!』


 だめだこりゃ……夕もそっち系だった。よし、しばらくそっとしておこう!

 そうして孤立こりつ無援むえんで取り残された俺は、ポカンと口を開けるルナと共にマニアの語らい銃弾飛び交う戦場ながめながら、ヤレヤレと首をるのであった。




【441/441(+2)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る