冒険録70 リア充力は意外と繊細だぞ!

 俺達は願いの力がまる条件を知ることとなり、その呼称こしょうについて女性じんはらぶぱわぁ~を推していたのだが……俺が必死にたのんだ末、折衷せっちゅうあんのリア充力で勘弁かんべんしてもらえた。正直これもどうかと思うのだが、多勢に無勢ではいたし方ない。

 続いて本題に入ろうと思ったところで、


「うーん……」


 となりの夕からなやましげな声が聞こえ、見ればまゆを寄せて難しい顔をしていた。


「リア充力の秘密が分かったのはいいけど……色々と困る事もあるわね」

『ああ、そうだろうとも』

「……どういうこと?」


 照れくささはさておき、よりめやすくなったことは喜ばしいはずだが……何やら俺が気付いていない問題点があるらしい。それも口ぶりからするに複数とな。


『くっくっく、キミはもう、本当ににぶちんだねえ? そうやって、あまりゆーちゃんを困らせるものじゃないよ』

「にぶちんなのー!」

「ふふっ、パパがにぶちんなのはあきらめてますから」

『ははは、それもまたきと?』

「ええ」

「またよきとー!」

「「『ねぇ~♪』」」


 何やら女子達だけで盛り上がっている。当事者の俺は完全に置いてきぼり。是非ぜひも無し。


「……どうか俺にも分かるようにお願いしますです」

『くく。この殊勝しゅしょう唐変木とうへんぼくに、乙女心を教示してあげてはどうだい?』

「もぉ、しょうがないわねぇ?」

「しょーがないなー!」


 絶対に分かっていないルナにあきれられるのは、正直納得いかないのだが……文句を言える立場ではないので、甘んじて受け入れる。


「あのね? 例えばだけど……パパが無自覚であたしへ胸キュンムーブをしたとするじゃない?」

「――待て、そんなことあるのか?」

「あるのよ! いっぱい! ――っという風に、実際に気付いてないわけでしょ? なのに、それで数値がバク上がりしちゃうと、あたしがうれしくて心の中でもだえ転がり回ってるのが、パパにバレちゃうのよ。そんなの……恥ずかしすぎるに決まってるでしょ!?」

「お、おう……?」


 たしかに、逆の立場を想像したら……あー、少々照れくさい、かもな?


「それをパパがあたしを見て察してくれたのなら、別にいいのよ――恥ずかしいけどね!? ……でも、それが計器で分かっちゃうなんて、イヤかなぁ」


 夕は少し悲しそうな目をすると、こう続けた。


「あたしたちは機械じゃないんだから、その心を数値化するなんて……そんなのいけないことよ」

「!? ……そうだな。あーその、なんか察しが悪くて、すまねぇ……」


 乙女心を理解するには、まだまだ時間がかかりそうだ。


「うふふ、いいの。そんなところもふくめて大好きだもん?」

「――っ!?」


 突然とつぜん口撃こうげきに心臓がね上がったところで、


「……ほーら、今すぐ確認しちゃうぞ~? うりうり~?」


 夕はスクリーン裏の時計を指差しながら、赤くした顔をニマニマさせる。


「やめてください!」

「でしょぉ~? わかったぁ~?」

「ハイ」


 身をもって理解することになってしまった。


『くくっ。精進したまえ、大地少年?』

「しょーじんしたまえー! ――あうっ」


 真似っこが過ぎるルナを、ちょんとつついておいた。


「……んで、他にも心配事が?」

「ええ……そのね、この世界で生きる上で力を溜めることは大事だけど……そっちが目的になるのは絶対イヤだなって?」


 力を溜めようと頑張り過ぎるのは良くない、ということ……?

 疑問符ぎもんふかぶ俺をよそに、夕はカレンの方を向いてこう続ける。


「でも、あたしの予想からすると……そう思う私は大丈夫だいじょうぶってことですよね、カレンさん?」

『ふふっ、ゆーちゃんは実に聡明そうめいで誠実な子だね。ああ、わたしまでれてしまうよ』

「そっ、そんなぁ」


 ベタめされて、夕がテレテレモジモジしている。よろしい、もっと褒めなさい。


『それで、ゆーちゃんの予想通りさ。安心したまえ』

「よかったぁ」

「……と言いますと?」


 夕は納得して安心しているようだが、俺には何のことかサッパリ分からないので、今度も素直に聞いてみる。またもやにぶちん判定を受けてしまいそうだが、聞くは一時、聞かぬは一生の恥だ。

 するとカレンは俺を見てヤレヤレと首をると、補足説明をしてくれた。


『つまりだね、キミ達のリア充力は自然に生まれる充実感・幸福感などによって溜まるものであって、意図して溜めようとしても効果がうすいのだよ。なぜならば、今ゆーちゃんが「絶対イヤ」と感じたように、たがいを尊重し真摯しんしに向き合う素敵なキミ達は、それを不純な動機と認識しているからね』

「ああ!」


 夕との混浴で結果として力がばく上がりしたが、かと言って力を増やしたいがために混浴しても増えないと。たしかに、まるで見返りのために行動しているようで、そんな理由で夕と接するのは悪い気がする…………なるほどなぁ、そのとがめる心が増加をはばむ訳か。リア充力の判定はとても繊細せんさいらしい。


『そう、いわばはノーカンってことさ!』

「はい! ノーモア不純らぶらぶです!」

「ぶふぉっ」


 まったくカレンは……わざわざこっ恥ずかしいワードに言いえないでくれ。


「ねぇねぇ、ふじゅんってなぁに?」

『うむ、イケナイことだね』

「えー、ままとぱぱ、いけないことしたのー?」

『くくく、そうかもしれないねえ?』

「おい、しれっと誤解を招くことむんじゃねぇ!」


 この魔王、油断もすきもない。


『なんだい、しないのかい? イケナイこと?』

「するかっ!!!」「しま……せん!」


 夕よ、頼むからそこは迷わないでくれ……ほらぁ、カレンがすっげぇ楽しそうな顔してるじゃないか!




【439/439(+6)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る