冒険録68 主人公とヒロインが裸にされた!

 風呂上がりの牛乳を飲んで一息ついたところで、俺たちはテーブルで向かい合って、明日からの方針について話し合うことにした。


「まずは宿だけど……明日からもお願いしてみよっか?」

「ああ。治安のいい日本と違って、信頼しんらいできる宿を探すのは大変そうだしな。明日になって空いた部屋に、宿代をちゃんとはらってまろうか。少なくともここでの生活に慣れるまでは?」

「ええ、そうしましょ」


 相当立派な宿なので宿賃が気にはなるが、現在の所持金が金貨六枚ほど――六十万円相当もあるので数泊すうはく程度ならば心配は要らないだろう。お金で安全が買えるなら安いものだ。


「んで明日は服屋に行かないとだな。これじゃあまりに目立ちすぎる」


 夕の私学制服を指さしてそう言った。


「うん。門でホリンさんに不審者ふしんしゃあつかいされちゃったもんね?」


 つかまるまではないにしても、街を歩くだけで奇異きいの目にさらされるのは困りものだ。


「この世界にも、可愛い服が売ってるといいなぁ~」

「るなも、おようふくほしいのー!」

「いや、流石にルナのサイズは――」

「じゃぁお人形屋さんも寄ろうね?」

「わーい!」


 ああなるほど、人形用の服を探せばいいのか。


「うふふ。水上デートとお買い物デート、楽しみだわっ!」

「ソウダナ……」


 ま、まぁ、デートとは言っても、ルナも居るしな。ウン。


「そういや、力はどうなってる?」


 俺たちにとって現状最大の武器なのだ。随時ずいじ確認しておかねば。


「んと、確かお風呂入る前に見た時は、四時間くらいで……」


 夕はそう言いつつ、ポケットから金の懐中かいちゅう時計を取り出して、テーブルの上に置いた。

 ルナが満足すると増えるはずであり、そのルナは風呂で大はしゃぎしていたとなれば……五時間近くまでまっているかもしれないな。そう期待して待つと……


「うわわわぁ!?」


 夕が時計を開いた瞬間、喜び混じりのおどろきの声を上げた。これは思っていたより増えていたのだろうか。


「な、七時間……」

「ちょマジで!?」


 俺も驚いて時計をのぞむと、確かに青い時針が七時過ぎを示している。時刻が全然違うので、うっかり時計機能になっていることもない。


「えーと……お風呂入ったら三時間増えた、でいいよね?」

「そうなる、な。ルナが家族風呂をめっちゃくちゃ気に入って――にしても増えすぎでは?」

「…………もしかして」


 ――プルルル

 何かに気付いた様子の夕が口を開いたところで、目の前に置かれた時計に着信が入った。

 二人で顔を見合わせて軽く溜息ためいきくと、夕が閉じられた表蓋おもてぶたを再度開く。


『わたしだ』

「やはー! るなだー!」


 ルナが元気に返事をしつつ文字盤をペチッとたたけば、時計の真上にホログラムスクリーンが現れ、魔王様の上半身が映し出された。夕とはさむ形では話しづらいので、俺は椅子いすを持って夕のとなりに並んで腰掛こしかけ、時計をテーブル奥に置いてカレンと対面した。ルナは当然のように、夕のお団子の上に座る。


『くっくっく、夜分に失礼するよ』

「あいよ」「こんばんは、カレンさん」「かーちゃん、こんばんはなのー!」


 そこで俺が、今度はしかられる前に感想を言わねばとカレンの姿を見れば……お洒落しゃれなナイトローブを身に着けて、白いショートヘアもしっとりらしており、向こうもお風呂上がりなのだろうか。それが何というか結構色っぽくて、スクリーンしでも少し緊張きんちょうするなぁ……と思っていたら、夕に背中を軽くつねられてしまった。


『くふふ。嬉しいね』


 カレンは羽耳をパタパタさせつつ、こちらをニヤニヤ見つめてくる。


「はぁ……んで今度はどうした?」

『いやなに、安否確認でもと? それでそこは宿……うむ、みな息災で何よりだ』

「おう、おかげ様でな」

「その節は本当にありがとうございました」


 カレンが裏で手を回してくれなければ、ヤスとは会えておらず……恐らくはホリンに門前払いされる――いや、不審者として捕まっていたことだろう。


『はて、何のことかな? キミ達は熱い友情パワーで引き寄せ合っただけさ。羨ましい限りだね、くくく』

「いやいや、勘弁かんべんしてくれよ」

「うふふっ、カレンさんらしい」


 礼を言われる程のことはしていないよ、とでも言いたいのだろう。本当にいきな事をする。


『……さて、それで異世界の冒険は楽しめているかい?』

「まぁ色々大変だったけど、魔法やらなんやら、未知のことだらけでワクワクはしたかな?」

「ええ。カレンさんに魔法の使いかたを教わっていて、本当に助かりましたよ。ありがとうございます」

『くくっ、わたしは初歩の初歩を伝えたまでさ。一を聞いて十を知るキミ達だからこそ、その真価を発揮できたのだよ。わたしもアドバイスのし甲斐かいがあるというものだ』

「ははは、生きるのに必死だったからな……」


 カレンにめられ、むずがゆい気持ちで夕と顔を見合わせる。


「……ふむ、わたしの想定をえる大冒険だったと。そうなれば、それなりに願いの力は溜まっていそうだね?」

「おう。いきなり急増して、七時間を超えたところだ」

『っなんと!? いやはや、まさかそこまでとは…………ふーむ、そうかそうか。これはキミ達を少々甘く見ていたかもしれない』


 カレンは少し黙考もっこうしてうなずくと、うれしそうにこう続けた。


『やる時はやるのだねえ、正直見直したよ! しむらくは、それをわたしが見られなかったことだがね!』

「……何の話だ?」


 何やら褒められているらしいのだが、とんと心当たりがない。

 それで再び夕と顔を見合わせて首をかしげていると……


『今しがた混浴を楽しんできたのだろう?』

「「ちょ!?」」


 まるで見てきたかのように、言い当てられてしまった。ナゼバレタシ。


『くくっ、当たりかね。とは言えまあ、照れ屋なキミ達二人のことだ、せいぜい着衣――もしくは魔法でかくしでもしているだろうけれど?』

「「ぐう……」」


 カレンの前では、まさに丸裸まるはだか。こちらの方は、魔法でも隠せやしないだろうな。




【427/427(+3)】

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