冒険録63 妖精さんの看護は冷たいぞ!

 夕がのぼせてたおれた拍子ひょうしに身体をおおきりが消えてしまったが、アブナイところで魔法をけ直して難をのがれた。

 続いてすぐに夕の看病をしたいところだが、のぼせた時は確か……冷たい水を飲み、横になって頭部を冷やす、だったよな? となれば……。


「【凝水アクア・コンデンス!】からの……【冷却コールド!】」


 魔法で夕の顔辺りの霧を集めて水球にし、合わせてその水温を下げる。それで夕の首より上の霧が消えて顔が現れたので、水球へ念じて口元へと移動させた。


「夕、飲んで」

「んっ、んっく……ぷあぁ、ひえひえ~、んまぁ~」


 水球に口を寄せてちゅうちゅうと美味しそうに吸う夕は、まるで雛鳥ひなどりのようであり、加えて熱のせいか口調もゆっくりでたどたどしく……なんとも庇護欲ひごよく刺激しげきする可愛らしさだ。

 次は頭部の冷却れいきゃくだが、頭に直接魔法をかけるのは失敗すると怖いので、冷やしたれタオルを乗せようか。そう思ってたるから出ようとしたところで、


「ままー、なにしてるのー?」


 となりでお湯にきながら寝ていたルナが目覚め、床で寝そべる夕の前に飛んで行く。


「ん~、ママのぼせちゃったんだぁ」

「おー! るなにまかせるのー!」


 ルナは「んっ!」と力を込めて、全身に銀色の光をまとうと、夕のおでこにペチャッと張り付いた。


「んあぁ~、ちめたぁ~、きもちぃ~」

「ままはあちあちー!」

「ありがとねぇ~」


 なるほど、ルナは魔法で身体を冷やして、氷嚢ひょうのう代わりになっている訳か。食事の時は透明とうめいにもなっていたし、なかなか上手く魔法を使うものだ。俺も娘に負けちゃいられないな。


「ええと確か、動脈に近いところも冷やすといいんだっけ? ルナ、わきの下も冷やしてあげて」

「はーいなのー!」


 ルナは張り付いていたおでこからコロンと転がると、首下の霧の中へと飛んで行く。


「んひゃあぁ! ――はふぅ、ちょっとくすぐったいけど、気持ちいいわ」


 夕は冷たさに一瞬おどろいたものの、満足気にしている。口調もしっかりしてきたので、だいぶと回復してきているようだ。

 そこで夕の看病はマジカルフェアリーナースさんにお任せして、俺は先に服を着ておくことにする。夕から見えないように樽から出て、服を仕舞しまったたなへと向かい、身体をいてヤスから借りた服を着る。そでを通したあさ膝丈ひざたけポンチョは通気性が良く、風呂上がりに丁度良かった。

 続いて先ほどまで着ていた外着を洗濯せんたくしておこうと思い、かごごと運んで樽へ中身を投下する。横にられた『クリーンスクロール』内の魔法陣の中央へサービス魔晶石を当てると、丸い陣の外枠そとわくに加えて中央の文様も青くかがやいた。試しに洗濯機のように樽の中をグルグルかき混ぜ、少しして中のチノパンを取り出してみれば……骸骨がいこつ戦で付いた泥汚どろよごれが綺麗きれいサッパリ落ちていた。しかも依然いぜんと湯は樽底までみ切っており、どうやら水中の汚れを即座そくざに分解除去しているようだ。……とんでもない洗浄せんじょう力じゃね?


すごいぞ夕、これ本当に洗濯機だ! しかもめっちゃ高機能!」

「おお~、次あたしも使わせてもらうわね?」


 魔法文明の利器の素晴らしさを伝えると、すっかり元気になった夕は上体を起こしてそう答えた。

 続いて俺が樽から服を取り出し、順番にしぼろうとしたところで、夕から声がかかる。


「あ、パパ。シワになるから、絞らない方がいいかも?」

「ん? 干す前には絞らないと――あ、魔法で熱風を当ててかわかすんだな? いやぁ、夕もだいぶ魔法生活に慣れてきたな」


 魔法洗濯機の次は魔法乾燥機かんそうき――と思いきや、


「んにゃ、気化させるより直接取った方が絶対速いよ?」


 もっと良い方法があるらしい。


「取る……そうか、繊維せんいから水を吸い出せばいいのか!」

「そそ。あの便利魔法のdrainだよっ」


 体調が完全に回復した夕は、そう言いながら霧と共に立ち上がると、夕とルナの衣類を棚から樽へと移す。一方で俺は、洗濯した服を床へ並べ、乾いた後にシワができないようにピンとばしておく。


「【水吸アクア・ドレイン!】」


 詠唱えいしょうと共に俺の衣類から水が染み出し、手元でうずを描きながら青く輝く水球を形成していく。何度見ても綺麗な光景だなと思う。

 水が出なくなったところで衣類に触れてみると、乾燥機をかけた後のように完璧かんぺきに乾いており、加えてシワも全く付いていなかった。……この魔法、マジで便利過ぎでは?


「ふふっ、上手くいったみたいね? んじゃ、あたしのもお願いしていいかしら?」

「任せろ」


 夕のところへ向かうと、すでに洗い終えた衣類が床に置かれてはいたのだが、なぜかブラウス一枚しか見当たらない。しかも何かの上に重ねられているのか、ブラウスの中央が盛り上がっていた。


「えーと、他にも服が下に――」

「まってまって!」


 シワにならないよう全部出して平らに置いておくべきと思い、ブラウスをめくろうとしたのだが、途中で夕に手をつかまれた。


「そ、そのぉ、着てたの全部だから……できれば見ないで、欲しいなぁ? いくらパパでも、はずかしいよぉ……」

「全部……――っご、ごめん!」


 要するに全部ということは、言いえれば全部なので、つまりは全部ということになる。危うく第三次フリフリ危機で危険が危ない大惨事だいさんじになるところだった。




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