冒険録60 妖精さんは自爆するぞ!

 俺しか中に居ないと勘違かんちがいしたヤスが、有無を言わさず風呂場に入ってきてしまった。なので、はだかの夕を見られる前に一撃いちげきでヤスを仕留しとめる方法を考えていたところ……


「おまえはだめなのー!」


 なんとルナがたるから飛び出して、ヤスの目の前に立ちはだかった。――よしっ、ナイスだ守護妖精さん! 不埒者ふらちものを追い返せ!


「あ、ルナっこもいたのか。……でもダメってのは?」

「はいるとこないのー!」


 悪いなヤス、この風呂は三人用(妖精ふくむ)なんだ。


「……となり、空いてるんじゃ?」

「みていいのは、るなとぱぱだけなのー!」


 ……ん? 守護妖精さん?


「ええと……何を?」

「ままのはd――」

「だぁらっしゃぁ!!!」


 自陣じじんに投下されそうになった爆弾ばくだん発言を、大声を上げて拾い上げる。

 ぜんっぜん守護妖精じゃねぇ、自爆じばく妖精だった!


「大地、急にどうし――」

「ルナ! ちょっとこっちでパパと遊ぼうな!?」

「え〜? しょーがないなー! るながあそんであげるのー!」


 これ以上事態をややこしくされてはたまらないので、自爆妖精殿どのにはご帰還きかん願う。


「……なんだかよく分かんないけど、とりあえずこっち入るよ――って何このきり? なんか面白いことになってね?」


 局所的に発生している霧に興味をかれた様子のヤスは、夕の居る樽へと真っ直ぐに近付いて行く。


「ちょぉ待った!」


 俺は慌てて樽から出ると、ヤスの前に立って両手を突き出す。


「おいおい、大地までどしたっての? んでその霧は、なに?」


 ヤスは身体を横に倒して霧を見ようとするので、合わせて俺も動いてガード。中が見えてはいなくても、何かイヤだ!


「これは……そう! さっきスクロールの調整ミスって、熱くなりすぎたんだ!」

「あー、なるほど。ハハッ、慎重しんちょうな大地にしては迂闊うかつだなぁ?」

「うっせぇよ、慣れてねぇんだから……んで俺はちょうどアツアツのに入りたくなったから、すまんけどヤスは向こうの樽に、な?」

「ま、そういうことなら」


 ヤスはこのデマカセで納得してくれたようで、俺が入っていた樽の方へと向かい、かけ湯をして湯にかった。――ふぅ、危機一髪ききいっぱつだった…………ヤスのだがな。


「……うーむ」


 それで俺は、成り行きで夕の居る樽の前に立ったものの……到底とうてい入る勇気などなく、ただただ霧を見つめるばかり。


「どしたん、入らんの? ――ってかその霧、よく見たら奥の方だけ出てね? んなことあるぅ~?」


 ヤスがまた霧をいぶかしげに凝視ぎょうしし始めたので、射線しゃせんを切るよう樽の間に立つ。


「あー、スクロールの位置が向こうだしな?」

「なーる」


 問答でギリギリ乗り切ってはいるが、ずっとこのままで居る訳にもいかないので……もはや覚悟かくごを決めて入るしかないようだ。

 霧に目を向けると、立って浸かっている夕の後頭部の先がかろうじて見えるので、おおよその位置は分かる。あとは、絶対にさわらないよう気を付けて入るだけ…………ええい、ままよ!


「(夕、すまん、入るぞ)」

「(ひゃぃっ! どぉじょっ!)」


 夕は背を向けたまま、緊張きんちょうした小声で答える。あれほど一緒いっしょの樽に入りたがってはいたが、いざそうなると物凄ものすごずかしいというやつなのだろう。

 俺が後ろ向きで足を湯にそっと差し入れ、できるだけ樽の縁に身体を寄せながら全身をしずめていくと……無事に背中合わせかつギリギリ触れない状態になった。一応はミッション成功――とは言えだ……裸の夕と超至近距離きょりで同じ湯に浸かっていると考えるだけで……くぅっ、めちゃくちゃドキドキするぞっ!


「大地、何か辛そうだな? そっちそんな熱いのか?」

「おっ、おうよ。これは効くなぁ! ハハハ」


 湯は全く熱くないが、別口で頭がで上がりそうな件。


「ふーん、大地って結構あつ湯好きだったんだな。せっかくだし僕も入ってみよ――」

「やめとけ! これはあつ湯素人しろうとにはオススメできん! 気を失うことになるぞ!」


 俺がお前を昏倒させるからな。


「そ、そっか。僕は別に得意って訳じゃないし、そこまで言うならやめとくよ」

賢明けんめいだな」


 危ないところだったが、これでヤスの襲撃しゅうげきは全て乗り切った。後はヤスが出て行くまでえるのみ……絶対に夕を守りきってみせるぞ!




【326/326(+12)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る