冒険録58 ヒロインはやわらかいらしいぞ!

 暴走して一緒に風呂へ入ると言い出した夕は、目の前でいだくつとタイツに続いて、襟元えりもとのリボンをしゅるりと外す。そこで夕は顔をより一層赤らめながら、制服の肩掛かたかけスカートを脱ごうと肩紐かたひもに手をかけ、ゆっくりと横へずらし始めた。

 マズイマズイ! とりあえず後ろを向いて――いや、根本的な解決にはならない。まずは何とかして夕の身体をかくす……何か良い魔法は……そうだ、ここは水場みずば

 そして、重力に従って無慈悲むじひにも肩紐と共にスカートが落ちようとした瞬間――


「【召霧フォグ!】」


 俺は夕に手をかざして、濃霧のうむを発生させるイメージで詠唱えいしょうした。するとたるから水蒸気が夕へ吸い込まれるように移動し、夕の足元から目元辺りまでを白くおおい隠していく。……ヨシッ、これで夕の姿はボンヤリと輪郭りんかくくらいしか見えないぞ。緊急きんきゅう自主規制成功!


「あっ……ん、たすかる……かも。そのぉ、勢いで脱ぎ始めたはいいけど、実はすんごく恥ずかしくて、もう頭クラックラして倒れそうだったたんだぁ……」

「それなら思い直してくれよぉ……」

「あはは……」


 ほんと暴走すると色々やらかしやがる子だな! ただまぁ、気絶しそうなほど恥ずかしいのを押してでも、俺と一緒に入りたかったと……そう言われると、もちろんうれしくは、あるけどさ?


「……あのぉ、この状態でも……だめぇ?」


 そうして少し冷静になった夕は、混浴許可を得るべく甘い声でお願いしてきた。ほとんど姿は見えないが、きっと上目うわめづかいでこちらをじっと見ていることだろう。


「はぁぁ、分かったよ……きりでバッチリ隠れてるし、そこまで一緒に入りたいってなら……どうぞ?」

「やったぁ!」「わーい! ままぱぱとおふろなのー!」


 マッパ妖精さんもうれしそうに樽から飛び出すと、夕の居る霧の中へと飛び込んで行く。


「んしょ、んしょっとぉ」


 霧の中からは衣擦きぬずれ音や衣類の落ちる音がするが、何も見えないのでダイジョウブ。ウン。

 霧の中には生まれたままの姿の夕が居るはずだが、何も見えないのでダイジョウブ。ウン。

 次いで夕は霧ごとかべ木棚きだなに移動し、ルナの衣類も合わせて仕舞しまうと、となりの樽のお湯を柄杓ひしゃくで被った。霧が消えてしまわないかと一瞬あせったが、お湯にも負けず夕を覆い隠してくれている。ありがとう霧さん!

 夕はそのまま右の樽に入るのかと思いきや、ペタペタと足音がこちらへと近付いてくる。


「こっち、入っていい?」

「……逆に聞こうか。ナゼいいと思った?」

「だよねぇ……」


 夕とならギリギリ一緒に入れる大きさだが、ちょっと動くだけで接触せっしょく事故が起きかねない間隔かんかくになるだろう。いくら姿が見えなくても、それでは大惨事だいさんじというものだ。


「むぅ~、パパのけちんぼ……一応聞いてみただけだもん……」


 夕は残念そうにつぶやくと、ペタペタと足音が隣の樽の方へと遠ざかっていく。ご理解感謝します。


「よいしょっと………………――んあああ~~~、気持ちいいぃぃ…………はふぅ、一日動きっぱだったし、身体のしんまで染みるわねぇ~」

「だなぁ」


 夕は樽の横に置かれたみ台に乗ってお湯に浸かるなり、実に満足気な声を出している。それはまるで、数分前の俺を見ているかのようで……何故なぜか一緒に入るという少々困った事態にはなったものの、やはり樽風呂自体は大層素晴らしいものだ。バスマスターヤスに感謝感謝。


「――んひゃあぁっ!?」


 そこで夕が急に驚きの声を上げ、さらにパシャッとお湯のねる音が続いた。


「こらぁ、ルナちゃん! そんなとこツンツンしちゃダメッ!」

「えへへ~」


 霧で全く様子は分からないが、どうやらお転婆てんば妖精さんがお湯の中で夕の身体にイタズラしたらしい。


「やらかいのー!」

「も、もぉ!」


 ルナが無邪気むじゃきに報告してくるが……その「そんなとこ」がどこで、どれほど「やらかい」のだろうか……――ッイヤイヤ、想像したら絶対ダメ。雑念をはらうんだ大地!


「……くっ」


 初っぱなからこのような調子では、果たして俺は無事に風呂場を出られるのだろうか……だぁもう、どうしてこうなった!




【304/304(+18)】




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第7章も半ばまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


やったぁ混浴成功だ! よしさっさとイチャイチャしろ! などと思われましたら、ぜひとも【★評価とフォロー】をお願いいたします。

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