冒険録56 そうそれは……加熱自浄式洗濯樽風呂!
俺と夕の
L字階段を降り、その下部に位置する
「
そこでバコスさんは右の厨房へと向かった。パン造りはとても手間がかかるらしいので、前夜に
ヤスに続いて奥へ進むと、次も倉庫らしき部屋であり、加えて左側に小さな階段が設けられていた。位置からすると、バコスさんの居室へと
さらに奥の部屋――酒場から数えて三つ目の部屋に入ると、すぐ目の前に木製の
「ほい到着。一般客は店の外から入るけど、大地らは今みたいに中通ってくれていいぞ」
「あいよ」
そこでヤスは首から下げた
「わぁっ! さっき部屋でも見せてもらったけど、やっぱり魔法って便利ねぇ~」
「んだなぁ」
「ハハ。この世界じゃ『カンデラスクロール』はありふれてるけどね?」
その壁のカンデラスクロールには、
「ちなみに『イルミナスクロール』なら、ランプ無しでも明るくできるぞ。でも――」
「魔素の消費が激しい、ですね?」
「えっ……よく分かったね?」
説明の最後を言われてしまったヤスは、目を丸くして夕を見つめる。
「この世界の魔法って、何でもアリじゃなくて、独自の法則に
なるほど、夕は魔法を物理法則の延長とみなして、仕組みを理解しようとしてるんだな。この幼女学者先生にかかれば、ファンタジーもSFになっちまうかもなぁ……ほんと、さす夕。
「だからこのカンデラスクロールを考案した人は、万能だけどコスパが悪い魔法を手間がかかるスイッチだけに使い、光源自体は他の燃料資源で
「ほへぇ……」
「消費は少ないって言っても、魔晶石がなかったらどうしようもないよな?」
「んー、うちはサービスで極小の魔晶石を横にぶら下げてるけど、空になってたら無理で……僕がマスターに
「ああ、そうか」
住民札の本体は大きな魔晶石で、魔素がチャージされているのだから、同じように使えるはずだ。なるほど、住民札は強制魔素
「ま、立ち話はこんくらいにして、
ヤスの
「どうよ、僕のお手製樽風呂はっ!」
ヤスが大樽に両手を向けてそう告げると、夕からは再度の拍手が上がる。その木製の大樽は高さ一mの直径八十㎝ほどもあり、中には七割ほどお湯が入っていた。だが、下から火で沸かせるような構造にはなっておらず、かと言って厨房から運んでくるには大変過ぎる量に思える。
「これ、どうやって温めてるんだ?」
「ん、この『ヒートスクロール』でいけるぞ」
ヤスはそう言って、樽の側面に
「魔晶石を当ててる間は加熱できるから、入るとき適当に調節してな」
ヤスは隣に
「へぇ……で、こっちは?」
隅に「
「『クリーンスクロール』だね。中の水を
「ええと、つまりこの二枚で
「だね。――んでもそれだけじゃないぜぇ? 魔素をブーストすれば、
「おおお、そりゃ便利だなぁ」「すごいです!」
「だろぉ? まだ新しい商品だし結構なお値段するけど、これはイケルと思って
まさかの洗濯機にもなり、さらに身体の洗浄もできるとなれば、もはやハイテク多機能風呂……これは現代日本技術でも再現は難しいだろう。これほど便利な魔法グッズを見せられると、本当にファンタジー世界に来たのだと実感して、なんだかワクワクしてくるなぁ。
「それで実は、『ヤッス風呂』って名付けたんだけど……誰もそう呼んでくれないのが悲しい!」
「そりゃなぁ」「あはは……」「やすぶろー!」
せっかくの素晴らしいハイテク風呂なのに、そんな格安風呂みたいな名前を付けられるとは、何とも気の毒なことだ。
【264/264(+3)】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます