冒険録53 主人公達の結束が高まった!

 そうして話している間にも、すっかりトリカブトの毒が抜けきったようで、気付けば足のしびれもなくなっていた。

 そこで酒場の入り口のかねが鳴り、中からヤスが出てくると、


「ふぃ~、やっと片付け終わったぜ。――ん、みんなで大地囲んで何してんの?」


 俺たちを見るなり不思議そうに首をかしげる。


「まぁ、ちょっと死にかけてな?」

「ふーんそっか――ってはあぁぁ!? 僕が居ない間に一体なにがっ!?」

「ま、それは後でな」


 そう言って立ち上がれば、俺の手をにぎり続けていた夕も一緒いっしょに立ち上がる。……というのも、すきを見てはなそうとはするのだが、すぐつかまって握られてしまうのだ。それほど心配をかけたということなので、どれだけ気恥ずかしかろうと甘んじて受け入れるしかない……のもあるが、夕の手はもちもちのぽちゃぽちゃで、あらががたいほどのさわり心地なのだ。


「じゃ、今度こそまたな」


 そこでホリンが手を上げて再度の挨拶あいさつを告げる。だが、ホリンは俺と夕に視線を向けたところで、


「――おいヤッス」

「ん?」


 ヤスにかたを回して小声気味に話し始めた。


「でえとの意味、少し違うだろ?」

「たはは、バレたか。よく分かったな?」

「ハハハ、アレを見せ付けられたらな」

「んだよなぁ」


 そこで二人がこちらをチラ見してきたので、流石さすがの夕もずかしくなったのか手を離してそっぽを向く。


「――にしても兄妹でとは……難儀なんぎなことだな」

「え……あー、そうきたかぁ」

「ん?」

「気にすんな!」

「……まぁいいか。じゃ!」


 二人が勝手に言いたいことを言ったところで、ホリンは片手を上げて歩き去っていき、バコスさんとヤスも中へ戻っていく。

 それで俺も中に戻ろうと歩き出したところ、


「――おとと。どした夕?」


 立ち止まったままの夕に手を引かれる。り返れば、夕がゆっくりと背中に両腕りょううでを回し、胸に抱きついてきた。


「怖かった……本当にもうダメかと思った……」


 先ほどの状況を思い出したのか、夕の肩は小刻こきざみにふるえている。


「もう、こんな危ないことはやめて…………――なんて言えないのは分かってるの。大地は同じ状況になったら、また誰かを助けるために飛び込んじゃうと思う」

「そう、だな……」


 目の前で失われる命があり、それを救う手立てが俺にあるのならば、手を伸ばしてしまうだろう。そう、あの時ほのおの中に飛び込んでいった親父のように。


「……ごめん」

「んーん、いいの。それが私が好きになった大地だから」


 夕は胸元から顔を上げると、大人びた表情で微笑ほほえみかけてくる。


「でもね……大地が傷ついた時に、誰よりも悲しむ人がここに居ることを忘れないで欲しいの」

「っ!」


 例えその誰かを守れても、自分を犠牲ぎせいにしてしまえば、大切な人の心を守れない。それは、親父を亡くした俺が痛いほど味わってきたことじゃないか。

 

「ああ……俺はもっと、強くならなきゃな。夕の心も身体も守れるように」

「ありがとう。大地は本当に強くて優しい人」


 俺の決意を聞いた夕は、うれしそうにそう言うと、まぶしい笑顔を見せてくれた。


「――ふふっ」


 だがそこで夕は、ガラリといつもの子供らしい表情に戻すと、


「でもぉ、あたしだってパパを助けられるように、もっと強くなってみせるよぉ? それこそ、死のふちからでもパパをたたき起こせるくらいにねっ!」


 そう言ってニカッと笑う。夕の方こそ、本当に強くて優しい人……こんな素敵な夕と一緒なら、どこまでも強くなれる気がする。


「るなも、ままとぱぱをまもるのー!」


 そこでポケットから飛び出したルナが、鼻をふんすと鳴らして飛び回る。――ああ、大活躍かつやくしたルナも忘れちゃいけないな。


「うふふ。三人で頑張ろうね」

「おうよ!」「なのー!」


 そうして、仮初かりそめの父娘おやこ三人で見つめ合っていたところ……


「グオオオオオ!」

「「「!?」」」


 突如とつじょ雄叫おたけびが聞こえ、夕は慌てて両手を離すと胸元から飛び退く。

 今度は一体何ごとかと、すぐさま店の入り口へと向き直れば、そこにはなんと……バコスさんの巨体が! 


「チキショウ、泣かせる話じゃぁねぇか……オイ坊主ぼうず! テメェも頑張れよ! オラッ!」

「ハガッ――げほげほっ」


 隣のヤスが背中を強打されてむせている。

 続いてバコスさんは、俺たちに向けて馬鹿ばかでかい両腕を広げると、


「ま、オメェさんらの方は頑張りすぎたくれぇだ。今日はこのいこいの宿屋バコスでゆっくりしてってくんナ! ガッハッハ!」


 そう言って大口を開けて笑う。俺たちはそれに負けないほど元気良く応えると、仲良く三人で並び、酒場あらため宿屋の中へ意気いき揚々ようようと入って行くのであった。



~ 第6章 月と金星と豪快店主 完 ~   



【255/255(本章での増加量+70)】




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第6章までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


大地君が助かって良かった! 夕ちゃんヒロインしてるなぁ! などと思われましたら、ぜひとも【★評価とフォロー】をお願いいたします。


第7章は、サービス回とも言えるイチャイチャ混浴シーンとなります。ポロリもある……かもしれません。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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