冒険録46 主人公達が熱い歓迎を受けた!

 俺たちはフロアを動き回る坊主ぼうず――ヤスを呼び止めると、麦酒一つとお任せでソフトドリンク二つを注文した。


「へいお待ちっと」


 するとすぐにヤスが木製ジョッキ四つを器用に運んでくると、テーブルに置いてホリンの横へ座った。ホリンとヤスのジョッキには麦酒が注がれているので、どうやらヤスもむ気らしい。対して俺と夕のジョッキには、ブドウジュースらしきむらさきの液体……まさかワインじゃないよな?


「んじゃ、再会を祝して――」

「新たな友好を祝して――」


 ヤスとホリンの発声に続いて、


「「「「乾杯かんぱい!」」」」


 四人でジョッキをカコンと打ち鳴らし、そろって口を付ける。……良かった、普通のブドウジュースだ。口当たり良好でとても美味しく、となりの夕も顔をほころばせている。対面のお酒組も美味おいしそうにのどを鳴らしてジョッキをかたむけており、それを夕は少しうらやましそうな目で見つめて……夕さん、ダメですよ?


「ぷはぁ、うんめぇ! やっぱ仕事中の酒は最高だなぁ、ホリン!」

「おうよ!」

「いやいや……」


 ヤスはもっと仕事意識を持って欲しいし、ホリンは飯の時くらい仕事意識を捨てて欲しい。どちらも別の意味で問題しかない。


「もぉ~、そんなこと言ってると、またバコスさんにおこられちゃいますよぉ?」

「ん、仕事さえしてたら平気。こうしてホリンの相手をするのも仕事のうちってな?」

「ハハッ、良く言うぜ。んでもまぁ、呑み相手がいるのは純粋じゅんすいうれしいがな」

「だろぉ?」


 たしかに、騎士団長様という特上客への接待は立派な仕事かもしれない。


「それにここからだと店が全部見える――っと注文だ」


 最奥の席で手を上げる客に気づいたヤスは、即座そくざにジョッキを置いて走っていく。それはなかなかに手慣れた動きであり、バコスさんに怒られ続けてきたえられたのだろうな。



   ◇◇◇



 しばらく三人で雑談していたところで、手の空いたヤスが戻ってきた。次いでバコスさんが木の片手にのっそりと厨房ちゅうぼうから現れ、そのままノシノシとこちらへ真っ直ぐ近付いて来る。


「ほれ、食いナ! 名物バコス焼きだ!」


 バコスさんがそう言ってテーブルの真ん中にそのをドンと置くと、四人の歓声かんせいが上がった。……小皿に見えたのはバコスさんのうでがデカ過ぎるためで、要はただの目の錯覚さっかく――いやいや、んなことある?

 そのバコス焼きは、円形で薄手うすでのパン生地きじの上に色とりどりの野菜と肉とチーズが盛られた料理――いわゆるピザだった。


「すごぉい! バコスさん、奥に専用オーブンがあるんですか!?」


 料理好きな夕は、ピザを焼けるほどの本格オーブンがあると察して目をかがやかせている。


「おーぶん、ってなぁナンダ? 小僧は知っとるか?」

「初耳だな――あっ、それもユウヅの村の言葉か?」

「え……」


 オーブンが伝わらないとなると……古くからの日本語――和語や漢語は通じるが、外来語は通じないということだろうか。思い返してみれば、ホリンはビールを麦酒と言っていたし、こちらの人達は日常会話で外来語を一切使っていない。唯一ゆいいつ使われたのがスクロール類だが……例えば魔法に関する言葉は外来語として普及ふきゅうしている、とか?


「――あ、はい! こちらの言葉では、石窯いしがまです」


 夕も同じ考えに至ったのか、すぐに言い換えて伝える。


「ン、石窯ならあるぞ。日中は麦餅むぎもちを焼いて売り出しとる」

「ふわぁ、素敵ですね!」


 麦餅……パンのことだな。昼はパン屋で夜は居酒屋、なかなかめずらしい組み合わせだ。


「――あ、そゆことぉ!」


 そこでヤスが何かに気づいたのか、隣のホリンに話しかける。


「なぁ、デートって分かるか?」

「……いや? さっきユウヅが使ってたし、村の言葉だな? どういう意味だ?」

「やっぱか。んで意味は…………仲良く遊ぶ、だね」

「なるほど。兄妹ででえと、いいことだな」


 ヤスは俺と夕を一瞬見たあと、若干意味を変えて伝えてくれた。よしよし、気が利くじゃないか。ヤスのこういうところは信頼できるんだよなぁ。


「――サ、熱いうちに食ってくんナ?」


 バコスさんの催促さいそくを受けて、夕が付属のナイフで手早く四つに切り分けると、みなで一切れずつ取って口に運ぶ。


「うんま……」「ん~おいしぃぃ!」「さすがはオヤッサンだ」「うあちちっ!」


 すると四人から口々に称賛しょうさんの声が飛び出した――いや、一人は火傷やけどの舌が飛び出した。

 それでこのピザは本当に美味しいものであり、石窯で表面がカリッカリに焼けつつも中はモッチリの生地に、深みのある良質な野菜、めばしるが吹き出す肉、濃厚のうこうなチーズ……これは名物と呼ばれるのも分かる。こんな素晴らしい料理で歓迎してくれたとなると、俺たちはバコスさんに随分ずいぶんと気に入られたのかもしれない。


「ガハハ、美味うまそうに食ってくれんじゃぁねぇか。ヨシ、もいっちょ焼いてやんぜ!」


 皆がピザに舌鼓したつづみを打つ中、バコスさんが満足気にそう言ってカウンターまで移動したところで……カランカランと来客を告げるかねが鳴った。




【206/206(+2)】

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