冒険録43 主人公達は王都の地図を手に入れた! (挿絵有)

 発行手続きを終えて階下に降りると、すでに辺りは薄暗うすぐらくなっていた。城門わき松明たいまつには火がともされており、電灯でんとうにはない暖かな光が辺りを照らしている。城門には先ほどの門番達が街側に一人、外側に二人立って警備けいびしており、はばと奥行きが五m程もある城門となればやはり三人は必要なのだろう――ホリンが例外なだけで。

 その街側の門番が俺たちに気付いて敬礼したところで、ホリンが片手をあげて挨拶あいさつする。


「おつかれさん。オレはあがるから、あとよろしくな」

「はい! ホリン様のご自宅でもありますから、命に替えても門を死守いたします!」

「おいおい、そんなヤバイ状況じょうきょうになったらオレをすぐ呼べっての。多少っぱらっててもお前らより戦えるぜ?」

「それはもちろんでございます。ですが折角せっかくホリン様がおくつろぎのところを――いえっ、おおせのままに!」


 途中でホリンがにらむと、門番は敬礼して答えた。部下――ではなく同僚どうりょうにも過労を心配されているようだ。

 そうして腹ペコヤッスの先導の元、四人で歩き出したところで、


「ふふっ、お優しいんですね。これは皆さんが敬意をもってしたうのも分かります」


 夕がうれしそうに隣のホリンへ話しかけた。


「おおお? そう言われると照れるぜ。――ま、あいつらも精鋭せいえいだし、滅多めったなことはないだろうがな」


 ホリンの言う通り、三人とも随分ずいぶんと引きまった身体をしており、一つ一つの所作がとてもキビキビしていた。それなりに武術をたしなんでいる俺は、三人が毎日相当の訓練を積んでいると察したのだが……


「そうなん? 全然強そうには見えんかったけど……めっちゃヘコヘコしてたし?」


 ヤスには感じ取れなかったようだ。


「ばっかやろう! 五門を任される門番が弱い訳ないだろうが!」

「お、おお。そうなん?」

「ったく、ヤッスにも分かるような話をするとだな……以前に武装した野盗やとう十数人が深夜に侵入しんにゅうしようとしてきたが、オレを起こすまでもなく三人で難なく処理してた。地の利はあるにしても、相当の実力と連携れんけいがないと勝負にならん人数差だ。……お前なんかそれこそ秒で転がされるぞ?」

「ちょ、まじかぁ……門番は怒らせないように気をつけよっと……」


 それでホリンはその精鋭三人分よりはるかに強いと……ハハハ、最初にちょっと対応間違えてたら俺死んでたな!



   ◇◇◇



 そうして雑談しつつも、俺たち四人は南へびる大通りの中央を横並びで歩き、ヤスの酒場へと向かう。


「ほんと立派な道よねぇ~」

「ああ。王都前の街道といい、大したもんだよな」


 目の前を真っ直ぐどこまでも続く道は、幅二十mはある石畳の大通りであり、きっとここが王都の目抜めぬき通りなのだろう。もちろん日本にはもっと広い道路がいくらでもあるが、そのど真ん中を悠々ゆうゆうと並んで歩くなんてできないし、なかなか新鮮な感覚だ。俺たちの周りにはチラホラと人が行き交っており、よく見ると農具を持った人が多いが……そうか、農地が城壁の外側となれば、城壁のすぐ内側に農家が集まるのは道理だな。


「ふふっ、滑走路かっそうろみたいね? 綺麗きれいだわぁ~」

「ん? おお、たしかに」


 道の両端りょうたんには、胸高さ程の篝火かがりび等間隔とうかんかくかれており、黄昏時たそがれどきの薄暗い道をほのかに照らし出している。その赤橙色せきとうしょくの光が遥か彼方かなたまで延々えんえんと並んでいる様子は、夕が例えたようにまるで滑走路だ。

 そこで夕が篝火に興味をかれたのか、ちょこちょこと近寄って行ったところで、


「ねねね、パ――お兄ちゃん! みてみてぇ、脇に水路があるよ!」


 子供のようにはしゃぎながら俺へと手招てまねきする。呼ばれて夕の隣に立ってみれば、路面から二mほど下に幅五mほどの水路があることに気付いた。


「……ほんとだ。小舟までまってるな?」

ほりの水を一部引いてきて、生活用水や水運に使ってるのかしら? そうなると都市の中が水路でつながってる……はず?」


 夕と少し立ち止まっていたところ、二人が近寄ってきた。


「おう、ユウヅの予想通りだ。王都は五つの大門から中央の王宮に向かって大通りが伸びてて、今歩いてるのは『水の大路おおじ』。んで五本の大路の両脇には大水路があって、王宮を囲む内城壁うちじょうへきの堀に繋がってる。――そうだ、折角だしこの簡易地図をやろう」


 ホリンはそう言ってふところから羊皮紙を差し出したところで、


「旅人よ、ようこそ王都ギャラックへ! ……ってな?」


 右手を胸にお辞儀じぎすると、最後にウインクしながらニカッと笑った。その一連の動きが実にさまになっており、美形顔なのもあって惚れ惚れするほど格好良い。


「ありがとう」「とても助かります」


 受け取った地図を篝火に照らし見れば、都市の外形に主な通りや水路が描かれていた。都市全体が幾何学きかがく模様のように整っていて非常に美しく……五角形と形状は違うが、京都の碁盤ごばん状の街を想像させる。

(挿絵:https://kakuyomu.jp/users/mochimochinomochiR/news/16817139557704366385


「すっごぉ、完璧かんぺきな計画都市じゃないの……ここまでのは現代日本でも無いわ」


 夕は目を真ん丸にしておどろくと、そうつぶやいた。たしかに、この規模の都市を計画通り造るということが、どれほど大変な事業になるか想像もつかない。


「ちなみに今向かってる酒場はここな」


 羽ペンを持ったホリンが、城壁から一本目の区画路と水の大路の交差点の南東角に「バコス」と書き込んでくれた。きっと酒場の名前がバコスなのだろう。あとどうでもいいが、結構字がキタナイ……やはり書き物は苦手らしい。


「それで、防衛上から王都外へは無理なんだが、王都内なら水路を伝っての移動もできる――観光用の小舟なんかもあるぞ?」

「「おお~!」」


 船で街中を観光、まるでヴェニス気分だな。もちろん行ったことないけど。


「ああ、素敵だわっ! この水路も、お昼だともっと綺麗なんだろうなぁ~…………ね、お兄ちゃん?」


 夕が上目遣うわめづかいでこちらをチラチラ見てきたので、


「夕、えーと………………い、一緒に乗ってみるか?」


 求められているだろう答えを返してみる。もちろん、夕と一緒に乗りたいのは本心だ。


「やったぁっ! 明日は水上デートだねっ♪」

「ちょ! そういう意味じゃ……」

「え~? じゃぁどういう意味~? ねぇねぇ、教えて欲しいなぁ~? にしし」

「ぐぅ……」


 夕は拳を口元に当ててニヤニヤしながら、後退あとずさる俺に詰め寄って下からのぞき込んでくる。いつにも増して上機嫌のご様子だ。


「……あー、そこのイチャついてるお二人さん? 浮かれ過ぎてうっかり落ちんなよ? ――ぶっちゃけ僕は一回落ちてるからねっ!」

「イチャついてねぇっての!」

「あら、そうなの?」

「ちょぉ、夕……」

「――ハイハイハイ、ぼかぁもうお腹いっぱいだっての! 物理的には腹ペコだけどさっ!?」

「ハハハ、ユウヅも兄の前ではすっかり甘えん坊になるんだな。仲のいい兄妹で結構なことだ、ウンウン」


 ホリンは温かい目をしながらうでを組んでうなずいており、クリウスさんとは違って兄妹設定をちゃんと信じてくれているようだ。助かります。


「……ホリンよぉ」

「ん?」

「こういうのニブイよなぁ……こんな分かりやすいのに……」

「んんん?」


 ヤレヤレとあきれて歩き出すヤスに、ホリンは首をかしげながら後を追う。ヤスが呆れる側というのは、実にめずらしいパターンだなと思うのだった。




【200/200(+11)】

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