第6章 月と金星と豪快店主

冒険録40 門番は門番ではなかった!

 俺たちは行商人クリウスさんとの商談の末、魔晶石ましょうせきを金貨二十五枚(≒二百五十万円)で売却ばいきゃくし、後払あとばらい分を除いた金貨十枚を入手することができた。これで俺と夕の住民札を購入こうにゅうすれば、大手をって王都の中へ入れるはずだ。

 それで俺たちは、早速とね橋をわたり、門番のホリンさんが立つ城門中央へと歩み寄る。すると丁度ちょうど出入りする人が何人か居て、ホリンさんは札を改めたり手早く道案内をしたりしていた。その手際良い仕事や通行人に向ける快活かいかつな笑顔からは、ただ城門を護るだけではない、都市の玄関口げんかんぐちに立つ者としての意識の高さを感じる。

 通行人が居なくなったところですかさず近寄ると、住民札二人分の発行料となる金貨四枚を手渡す。


「ホリンさん、発行料を用意してきました」

「うおっ、アンタらもう貯めてきたのか!」


 するとホリンさんは受け取った金貨を見て、目を丸くしながら感心している。


「――あ、さてはクリウスのヤツに色々売ってきたか? ハハッ、アイツもワルだなぁ~」

「うふふ、そんなことありませんよ? どこまでも商人らしい、とても気骨のある方でしたわ」

「…………ほぉ、こいつは面白れぇ」


 ホリンさんはおどろいた表情をし、興味深そうにしげしげと俺達を見つめる。どうやら俺達が足元を見られて買いたたかれたと思ったようだが、夕のふくみのある発言と笑顔で何かを察したらしい。


「――が、その話は酒のさかなに取っとくとして、まずは札の発行だな」

「「お願いします」」


 ホリンさんは城門の外に通行人が居ないことを確認した後、わきに置かれていた木製の立て札を手に取り、城門中央の地面に勢い良くき立てた。そこには、『ここでしばし待たれよ。無断で通過した者は命がないと思え』と物騒ぶっそうな事が書かれている。また、看板全体がっすらと光を放っており……近くに人が来たことを知らせる魔法でも、けられているのだろうか。


「さ、こっちだ」


 ホリンさんが手招てまねきし、城門の内側から続く石階段を上がり始めたので、三人で後に続いて登っていく。外から見た構造からすると、城門の上に位置する高いとうの中へとつながっているのだろう。

 たどり着いた二階は直径七mほどの部屋であり、中央に作業机と椅子いすが置かれ、ぐるりとかべ伝いにたなき詰められていた。また、机の奥側にはホリンと同じ格好の兵士が三人座っており、羽ペン片手にせっせと仕事に勤しんでいる。


「――っ、ホリン様!」


 俺達に気付いた兵士達が慌てて立ち上がるや否や、背筋を伸ばしてホリンさんへ敬礼する。……ホリン、様? 三人は同僚どうりょうの門番で、ホリンさんは上司――にしては態度が少々大げさな気もするが。


「そちらの方々は?」

「札の発行だ」

「かしこまりました。では手続きはわたくしどもに任されてホリン様はお戻りに――」

「いや、オレがやろう」

「……よろしいのです? その、ホリン様は事務作業があまりお好きでは――」

「ああ、こいつらに興味があってな?」

「ええと……はい! おおせのままに!」


 一瞬不思議そうにした三人だが、すぐに納得してけ足で階下へと降りて行った。


「ま、座んな」


 俺たちが呆気あっけにとられる中、ホリンさんが鉄兜てつかぶとを置いて机の奥側の椅子へドカッと座ったので、俺と夕は指示通り手前の椅子に座る。ヤスはホリンさんの隣の椅子に座ると、


「おいおいホリンよぉ、今のホリン様ってのは何だよ? 門番の間じゃそういう遊びが流行はやってんのかぁ?」


 その肩を鉄鎧てつよろいの上からパンパン叩いてからかい始めた。俺もすごく気になっていたので、聞いてくれたのは助かるが……あれは遊びって雰囲気ふんいきじゃなかったぞ? 大丈夫か? 怒られない?


「んまぁ、これでもこの国の騎士きし団長の一人なんでな。門番の時は同僚みたいなもんだし、楽にしてくれって言ってんだが……アイツらぜんっぜん聞きやしねぇ、ハハハ」

「騎士団長!?」「うわわわ!」「マジでぇ!」


 先ほどの一分のすきもないやりの構えや全身からあふれ出す覇気はきから、ただ者ではないとは思っていたが……まさかの騎士団長様だったとは! うっかり戦闘せんとうに発展しなくて本当に良かった! ……それにしても、何故なぜ門番をやっているのだろうか? 本当になぞな人だ。




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