冒険録34 門番は凄く仕事熱心だぞ!

 俺は門番のホリンさんから不審者ふしんしゃとみなされ、やりきつけられてしまった。


「おい! 言えないような所から来たってのか!」

「くっ……」


 この世界の知識が無い俺ではどうにもならない……となれば!


「ヤス! 戻ってきてくれ!!!」


 このホリンさんの友人らしいヤスに、俺の身の潔白を証明してもらうしかない。

 すると先を歩いていたヤスが気付き、首をかしげながらもどってきてくれた。


「何してんだよ、はよ行こうぜ? ――っておいおい、待った待った!」


 ヤスは槍を構えて殺気立つホリンを見るなり、大慌おおあわてで間に入って両手をる。


「……なんだヤッス、知り合いか?」

「うん、親友。んで全然あやしいヤツじゃないから、とりあえず武器をしまってな?」

「む……そうか」


 ホリンさんはまだいぶかしげな目でこちらを見てはいるが、ひとまず槍を手元に戻してくれた。……ふぅ、一時はどうなることかと思ったぜ。


「それでそいつらはどこの者なんだ?」

「あー、えと……日本?」

「ちょ――」


 おいバカ、それはマズイだろ!


「ニポン……一体どこ領の街だ? ユニバース王国じゃないとしたら……魔族の国か? おかしな格好もしてるしな?」


 案の定とホリンさんの目付きが一段と険しくなる。


「いやいや違う違う! あーえとその、北の森のずっと奥深くの超ド田舎のかくれ里で、知る人ぞ知るってやつ? んでこれは民族衣装! だよなっ?」

「そうです!」


 本当はここよりもよほど都会から来てるんだけどな?


「ふーむ……確かに森の深部は立ち入り禁止で未開の土地だな。それなら札も流通してないだろうし、知らんのも無理はないか」

「そうそう。つーわけで超~世間知らずだから、優しくしてやって欲しい!」


 随分ずいぶんな言われようだが、確かにこの世界に関しては世間知らずも良いところだ。


「あいよ――ってお前も世間知らずのくせに良く言うよな?」

「ははは、まぁね?」

「ふっ。まぁヤッスの親友ってくらいだ、悪いヤツじゃないんだろうよ」


 ホリンさんはヤレヤレと首を振ると、同時に鋭い目付きを和らげ、俺への警戒けいかいを完全に解いてくれた。ヤスの友人補正もあってか、どうやらこのでっち上げ話で納得してくれたらしい。

 そこで後ろの夕を見れば、俺に向かって両手をかざしており、もしもの時は魔法で護ろうとしてくれていたのだろう。なのでお礼を伝えつつ頭をでてあげると、顔をでろんとくずして喜んでくれた。


「――んで、大地は何でこんな物騒ぶっそうなことに?」

「いや、住民札とやらが無くて、気付いたら不審者あつかいに?」

「え……ああそっか。言うの忘れてたわ、すまん!」

「ほんと頼むぜぇ……」「お願いしますよぉ……」


 タハハと笑っているヤスにあきれるしかない。なんとも頼りない異世界の先輩せんぱいだ。


「おいヤッス、つまりそいつらは札を持って無いんだな?」

「あー、そうなんだけど……ここは友達サービスで通してくんね?」

「……友達? 誰と誰が?」

「ちょ、そりゃないぜぇ! 僕は友達と思ってたんだけどっ!?」

「ハハハ、冗談じょうだんだ。真に受けんなって」


 ホリンさんはパンパンとヤスの背をたたく。その様子からすると友人の前では随分ノリの良い人に見えるので、これはワンチャンあるかと思いきや……


「――が、それはそれ、これはこれだ。札が無い者を絶対に通す訳にはいかん」


 一瞬だけ先ほどのような鋭い目付きをして、キッパリと断ってきた。


「ま、これも仕事だ。悪く思わんでくれな?」

「はい……」


 門番というのは日本での税関けん警察といった職にあたるだろうし、公私の区別をしっかりつけるのは当然だろう。やはりそんな甘い話はないということか。




【81/170(+0)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る