冒険録32 悪友はエリートだった!

 そうして願いの力の源について一つの答えが出たところで、俺が小走りを止めれば、合わせて周りも立ち止まる。


「んじゃ、ルナの恩恵おんけいに預かって魔法ブーストといこうか。……あ、俺でいいよな?」

「うん、その方が良いわね」


 余裕よゆうがあるにしても力を節約するにしたことはなく、今回のように用途が明確な場合は、夕の汎用はんよう魔法よりも俺のピンポイント魔法の方が適しているだろう。


「では……【縮歩ファスト・ムーヴィン!】」


 長めの効果で若干じゃっかん足が速くなるイメージを浮かべ、自分の足に魔法をかけると……無事にあわい青の光を放った。それを見たヤスはうらやましそうな顔をして、ほへぇと息をらす。


「消費四十分ね」

「あいよ。んで夕にも、【縮歩ファスト・ムーヴィン!】。ルナは……すでに速いな。あとはヤスに――」

「たんま! 僕は自分でかけたい!!!」


 ヤスはかざした俺の手を軽く退けると、自信満々の顔でそうさけぶ。


「……は? お前も魔法使えんの?」

「え、試したことはないよ? でも初めての大地が使えたんだし、僕にも使えるはずだろ?」

「いやいやそうはならんて」


 それが成り立つなら誰でも使えることになるだろうが。それにカレンが「キミ達三人以外は使えない」と断言していたので、ヤスはルナの力を使えないはずだ。


「まぁまぁ、ものは試しじゃん? えーと何だっけ……そうそう、【ムービン!】」

「おい!」「ぷふっ――すみません」


 訳は「デブの歩み」と真逆の意味の詠唱えいしょうであり、夕が思わず吹き出すのもやむ無しだ。

 これでは力の源うんぬん以前の問題かと思いきや……


「ホラキタァ!」


 なんとヤスの足がまばゆい黄色の光を放ち始めた。


「うっそだろ!?」「ちょちょ、なんでよぉ!?」


 そうか、ヤスがイメージさえできていれば、詠唱はデタラメでもいいんだよなぁ……にしたっておかしくね?


「そもそも何でお前も使えるんだよ? ……夕、減ってるか?」

「んーん。ルナちゃんの力じゃないみたい」


 そうなると、まさかこの世界に元々ある魔法を使えたってことか? 修練を積んだエリートしか使えない魔法を? このアホヤスが? んなバカなっ!!!


「おおお? てこーとーは? 僕の秘められし魔法の才能が開花したパトゥ~ンではぁ? いやぁ自分の才能が怖いなっ! ヘッヘッヘェ」

「うっそくせぇぇ……んですぐ調子ん乗りやがってうっとおしいなぁ!」

「ハッハッハ。人の才能をねたむのは関心しないなぁ、大地先生?」


 ヤスはかたすくめて両手を上げ、ヤレヤレと首を振る。


「僕を見習って精進したまへ――」

「しゃらくせぇ!」「なのー!」

「へぶぁっ!」


 俺の宇宙大地斬チョップと共に、フェアリータックルが鼻にさる。よし、連携れんけいもバッチリだ。


「あはは……でも靖之やすゆきさんらしい、かもね?」

「だなぁ……」


 ヤスだから仕方ないと納得するしかないのか。ほんと理屈りくつの通じないヤツだぜ。


「イツツツ……ダブルは効くなぁ……」


 鼻を押さえてうずくまっていたヤスがムクッと立ち上がると、


「よし! これで僕は超エッルィ〜ト魔法で足がすんげぇ速くなってるはずだなっ!?」


 ドヤ顔でスタンディングスタートの構えを取った。その両足は依然いぜんと眩い黄色の輝きを放っており、かなり強い効果が発動していると予想される。


「おいヤス、どんくらい加速するか分からんから注意して走――」

「ヒャッハー! 僕は英雄えいゆうアキレウスっ!」


 俺の忠告も聞かずに全力で飛び出した自称じしょう英雄は、カタパルトのごとく超加速し……


「――ちょまっ!? へぶっ、ごっ、ぶへぁ!」


 当然制御などできる訳もなく、道路わきへ頭から大転倒してゴロゴロと回転し続け、ズザザと地面をけずりつつ土煙つちけむりを巻き上げて止まった。……息の根も止まってなければ良いが。


「「……」」


 気まずい沈黙がただよう中で夕と顔を見合わせると、見計ったかのように遠くでカラスがカァ~と鳴く。


「あー、えとぉ……そ、そっと歩きましょ!」

「……だな」


 二のまいにならないよう夕と慎重しんちょうに歩き出すと、け足ほどの速度で勝手に足が前へ進み、おどろきはしたものの転びはしなかった。――ああ、実験台先達はあらまほしきことなり。


「……靖之さん、生きてます?」

「……なん……とか……」


 十mほど先で地に倒れすヤスへ近付いて、夕が心配そうに声をかけると、ヤスは絶え絶えながらも生存報告してきた。


「ははっ、流石さすがは超エリート魔法(笑)の使い手だ、速すぎてアキレウスけんでも切れちまったか?」

「……おうよぉ……すげぇ……だろぉ……?」

「一ミリもめてねぇからな?」


 さらに俺が皮肉を言ってやると、なぜか得意げな返事が返ってきた。まったく、身も心も打たれ強さだけはエリート級――まさにエリートドMだな!




【82/162(+0)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る