第5章 月と金星と文無一行

冒険録31 みんなで夕日に向かってダッシュだっ!

 無事に森をけた俺達四人をむかえたのは、目の前一面に広がる草原であった。右手方向となる西側を見れば、すでに太陽は地平線付近まで落ちており、棚引たなびく雲があかね色にまって何とも美しい光景だ。また、やわらかにそよぐ風が、さわやかな草のにおいを運んできてとても心地よい。

 進行方向を見れば、ルナを追って少し先を歩いていた夕が立ち止まっていたので、俺はヤスと小走りで近付く。


「う~ん、素敵ねぇ~」

「やははー! かぜがきもちいーのー!」


 すると夕は、茶の制服スカートをひるがえしてクルクル回りつつ、夕焼け色に染まった顔でそう言った。


「ああ。地平線に沈みゆく太陽なんて、日本じゃそうそう見る機会ないもんな?」

「んだねぇ。さっきまではそんな特別感なかったけど、記憶が戻った今はちょっと感動もんだなぁ~」


 そうして四人で和気藹々わきあいあいと草原の中を真っ直ぐ南へ進むと、道が正面と左右方向にびるT字路にたどり着いた。


「へえぇ~、結構しっかりインフラ整備されてるのね?」


 夕がおどろくように、その四mはばほどの道には石畳いしだたみが平らにかれており、日本の無骨ぶこつなアスファルト道路とは違ってとてもおもむき深い。


「そだね。今向かってるのは王都なんだけど、その周りは特別気合入れて整備されてるって聞いてる。結構馬車とかも通るからね?」

「なるほど」


 そうなると、田舎に向かうにつれて土の道などに変わっていくのだろうな。

 そこで正面の道のはるか先をながめると、とうらしきものが建っており、その下部から左右へとかべが伸びていた。


「……あれがその王都か?」

「そう、王都ギャラック。ざっくり言うと五角形の形をしてて、高い壁にぐるっと囲まれてる。んで、今見えてるのは北側の頂点に建ってる塔で、その下に入り口の門がある」


 左右方向に延々と続く壁の先を目で追うと、何㎞先になるかは分からないが、っすらと塔らしき建物が見える。それが二つ目の頂点となると、全体はとんでもない大きさになるが、普通は王都=国最大の都市だろうと考えれば納得の規模だ。


「えーと、超巨大な城郭じょうかく都市ってことです?」

「そう言うんだっけ? そういや城みたいに壁の前にはほりがあるね。川の水を引いてるから、自由にんだり魚を取ったりもできるんだ」

「ほえぇ~……ねぇねぇパパ、巨大城郭都市だよ! すっごくワクワクしちゃうねっ!?」

「だな!」「わくわくなのー!」


 城郭都市なんて漫画くらいでしか見たことがなく、とてもロマンを感じさせる。ただ、言いえれば、王都を城郭都市とする必要があるほどには物騒ぶっそうな国ということでもあるが。


「……ところでさ。見えてる塔までまだ結構あるけど、着く頃には日が暮れてないか?」


 周りに対象物が無さすぎて距離きょり感がつかみにくいが、少なくとも二㎞以上はありそうだ。日没にちぼつまで一時間もないこともあってか、周りを歩く人が全く居ない。


「そうよね……んじゃ、みんなで走ろっか?」

「ああ。夕日に向かってダッシュってとこだな?」

「うふふ。青春っぽくていいわね♪」

「かけっこするのー!」

「僕はぶっちゃけしんどいけどねっ!」


 そこそこ装備が重そうなヤスは、文句を言いつつもどこか楽しげだ。あと、ルナは飛んでいるのでけっことは少し違う気がするぞ。

 そうして夕日を横目に一同小走りになったところで、


「――あ、そうだ。魔法使って加速したらいいんじゃ?」

「だねっ!」


 便利な魔法のことを思い出した。


「ヤス、ここって危険な魔物とか出ないよな?」

「ああ。深夜とかは危ないって聞くけど、今はせいぜい野犬とか? さっきの骸骨みたいなヤベーのは絶対居ない――ってか王都周りにあんなのがうろついてたら、死人が出まくる!」

「だよな――となると出ししみ無しだな」

「うん。今は二時間四十分の満タンね」


 夕は走りつつも時計を開いて確認してくれた。魔素まそをレンチンした時から十五分増えているが、その間で魔法を一切使っていない……これは力の秘密のヒントに……ああそう言えばさっきルナが……お、これはもしや?


「……何の話?」


 少し考え込んでいたところで、事情を知らないヤスから疑問の声がかかる。


「ああ。この夕の時計に表示される力を使うと、魔法みたいに願いがかなう」

「あっそれそれ! さっき大地が魔法使えたのが不思議だったんだ。この世界じゃ普通は長年修行したエリートしか使えんからさ?」

「へぇ、そうなんか」


 どうやら、この願いの力とは別に魔法が存在しているらしい。


「で、そっちの力ってのは何なん?」

「すみません、それはまだ良く分かってないんですよぉ」

「……いや、ひとつ予想がついたかも?」

「え、ほんと!? さっすがパパだわ!」


 夕がとなりからキラキラの眼差まなざしを向けてくるが、解明できた訳ではないのでそこまで期待しないで欲しい。


「いや、全部に当てはまるかは分からないが……ルナの願いが叶うと増えるのではと?」

「よんだー?」


 小走りに進む俺達の前でルナが万歳ばんざいしてきたので、うなずき返しておく。


「ほら、さっきの骸骨との戦闘で、ルナがやる気満々になった瞬間に増えたろ?」

「あっ、たしかに」

「つまり、ルナがワクワクしたり喜んだりすると増える……最初にルナがしたい事と言ってた、大冒険とか……ア、アレとかな?」

「っ!? ええと、アレ、ね。そっかぁ、そういうことかぁ……」


 夕は照れてうつむいたかと思いきや……「あれ? これってチャンスかも? うふふふふ」などとあやしげにつぶきはじめた。……おーい夕さん? 変な雑念ざつねんれてますよ?


「……あのー、僕イマイチわかんなかったんだけど……アレって?」

「お前は知らんでいい!」「そうです!」「なのー!」

「僕のあつかいひどくねっ!?」


 俺と夕が仲良くするほど力がまるなんて、ヤスに言えるかっての。盛大にからかわれる――ってそうか。だからカレンは教えずにいて……裏でこっそりニヤニヤしていた訳か! チキショウメ!

 だがこれで、世界のかくであるルナを満足させると、その恩恵おんけいとして力が使えると分かった。なぜ俺と夕が使えるのかは分からないが……ルナが俺達に心を許しているから、とかだったらちょっとうれしいかもな。




【願いの力:162/162(+7)】

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