冒険録30 悪友はとてもツイてるぞ!

 俺総ツッコミのカオスなさわぎも収まり、引き続きみなで情報交換しつつも歩みを進める。ヤスとの合流地点で三十分と聞いていたので、もうそろそろ出口に着いても良い頃合ころあいかと思う。


「……ところで、靖之やすゆきさんはここに来てどのくらいなんです?」

「んー、一ヶ月くらい? 来た時の事は良く覚えちゃいないんだけど、なんか道端みちばたはだか一貫いっかんで倒れてたらしい。んで親切な酒場のマスターにひろわれた」


 裸一貫……ただ単に裸で倒れていただけな。


「……お前よく生きてたな?」

「マジそれよ」


 もし俺達も裸で飛ばされてたとしたら、色々な意味で大変なことになっていたところで、このヤスの強運があってこそえられたというものだ。


「おまけにさ、記憶どころかお金や服すらもない僕を、住みみで働かせてくれてなぁ……いやもうマスターにはガチで感謝しかない! ――まぁ仕事トチったらこぶしが飛んでくるような、くっそこえぇオッサンだけどな!?」


 日本ではなやみもなさそうなお気楽ヤスだったが、ここでの一ヶ月は随分ずいぶんと苦労してきたようで……確かに裸一貫からのスタートだな。一応は異世界生活の先輩せんぱいということになるし、つめの先程度には敬っておこう。


「で、その酒場スタッフがなんで剣士に? 一端いっぱしの武具までそろえてさ?」


 ヤスは刃渡り五十㎝程の剣を収めたさやを左こしるし、左手に直径四十㎝程の円盾、かたと胸に皮の当て物を装着しており、どう見ても酒場で働く格好かっこうではない。それでヤスは顔立ちが悪くなく金髪なこともあって、この西洋風の格好がまた妙に似合っている。……何だかしゃくだな。


「あーそれがなぁ……酒場の仕事もフルタイムって訳じゃないんで、空き時間にぐーたらしてたんだけどさ……『おい坊主! わけぇんだから冒険でもしてかせぎながらきたえてこいや! ――んまぁ、頭んなか飛んじまった坊主ぼうずにはちとキチィかもしれんが……おっんだら骨拾って墓ぐれぇ作ってやんよ、ガハハ!』と強制的にっ! 僕に安息の時はなかったっ!」

「あはは……なかなか豪快ごうかいなマスターさんなんですね?」

「ほんとそれよ? 街に帰ったら紹介しょうかいするけど……魔物と思って悲鳴上げないようにね?」

「そっ、そんな失礼なことしませんよ!」


 夕は心外ですとばかりにほおふくらませている。

 魔物と間違えかねないって、どんだけだよ……聞いた感じでは、ヤスの苦手補正もありそうだ。


「――んでこの装備一式は、マスターの若い頃のを借りてる。さすがに装備も無しに外へ放り出すほど鬼じゃなかった」

「ほえぇ、すっごぉ……実物の武具なんて博物館くらいでしか見る機会ないし、何だかワクワクしちゃうね?」

「ああ。古いけど、どれも造りがしっかりしてるな」

「うん、物はいいらしいんだけど……結構臭い!」


 盾には欠けやへこみが見られ、鞘や防具にも古い傷がいくつも付いており、随分と年季の入った品々だ。恐らくそのマスターさんの思い入れもあるはずで、そんな品を貸してくれるとなると、ヤスは案外気に入られているのだろうか。弓道部でも部長として部員からしたわれていたし、このアホさ加減が良い味となって人をき付けるのかもしれない。


「となると、今日はその冒険がてらで森に来てたって訳な」

「いんや別件――というのも、今朝厨房ちゅうぼうで料理の仕込みをしてたら、突然目の前に知らない美少女が現れてね? 『ヤッス君、突然で済まないが昼過ぎに北の森へ行ってくれないかな? たのみを聞いてくれたならば相応の礼はするよ、くくく』と言ってきたんよ。もち秒でオッケーした」

「「……」」


 俺は夕と顔を見合わせると、そろってヤレヤレと首を振る。口調と状況から考えて、間違いなくカレンだろう。まさかヤスと会えるように裏で手を回してくれていたとは……ほんとお節介せっかい大好き魔王様だな。


「えっとぉ、靖之さんはよくそれで言うこと聞きましたね? その方にだまされてるかもとか考えなかったんです?」

「え、そりゃぁ女の子のお願いだし? 聞くでしょ、常識的に考えて」

「世間の常識に謝れ! お前の常識は非常識だ!」

「っだろぉ? 僕ってトガッてるよなぁ~」

めてねぇよ!」

「ふぐぁ!」


 ツッコミのチョップを入れようとしたが、すでにルナが「なのー!」と叫んで眉間に体当たりし、手際良くヤスを悶絶させていた。ああ、なんて優秀な娘なんだ。


「アツツツ……んでそのかわい子ちゃんはすぐどっか行っちゃったけど、こうしてちゃんとお願いは聞いたし、きっとまた会えるはず! うーん、小悪魔的な笑みが何とも素敵な子だったなぁ……ああそういや、その子の顔とかSっぽい雰囲気ふんいきが……そう、クラスのなーこちゃんに似てたような――ん? ひょっとして姉妹だったり? ってか大地らも来てるってことは……むしろ本人まであるんじゃね!?」


 ヤスは日本での記憶が戻ったことで、その正体に思い至ったようだ。


「やっと気付いたか。ちなみにここでの名前はカレンだ」

「マジか!」

「しかも魔王」

「ちょまっ!? やっべぇ……ホイホイ言うこと聞いたらまずかったパターン?」


 美少女の正体を知ってヤスの顔が一瞬で青ざめる。ちなみにヤスも、俺と一緒にカレンなーこからお仕置きされた仲なので、あの子の恐ろしさは重々理解している。


「そもそもカレンじゃなくてもマズイとは思うが……ただ今回については、単純に俺らを会わせたかっただけで、何か悪巧わるだくみをしようって訳じゃないと思うぞ?」

 

 とは言え、カレンの考えている事なんて俺程度に読めるものではないが。


「んー……大地がそう言うなら大丈夫だな」

「うふふっ、信頼しんらいしてるんですね。嬉しいです」

「ははっ、そうかも?」


 なぜかヤスは、俺の判断に全幅ぜんぷくの信頼を寄せてくる。……まぁ悪い気はしないが、少しは自分で考えて欲しいものだ。

 そうあきれつつ歩いていたところで、


「――お? そろそろ出口っぽいよ?」


 ヤスからうれしい報告があがった。それで視線を奥へと向ければ、遠くの樹木の間には光のカーテンが広がっており、どうやら森の切れ目のようだ。


「ふぅ、やっとか」「もりはあきたのー!」「早く街で休みたいわねぇ」「ああ、僕生きてもどれたんだなぁ!」


 色々と盛り沢山だくさんだった森林探索たんさくもようやく終わりということで、皆で安堵あんどの表情を浮かべて口々に話す。


「やははー! るながいっちばーん!」

「んもぉルナちゃん! 危ないからあんまり先行っちゃだめよ~?」

「わかってるのー! だからままもはやくはやくー!」

「はいはい、そう急かさないのー」


 一人飛び出して両手を振るルナを、夕が小走りに追いかけて行く。


「へぇ、夕ちゃんはすっかりママさんだなぁ――っとなると、大地もパパらしくしないとじゃね? 予行練習もねてさ? ハハハ」

「ほっとけや!」


 こうしてヤスを加えて四人になった俺達は、期待と少しの不安を胸に抱きつつ、まだ見ぬ新世界へと一歩み出すのであった。



~ 第四章 月と金星と悪友参上 完 ~  



【155/155(本章での増加量+55)】




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第4章までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


このヤスってヤツ面白いぞ? やっぱハピスパにはヤスが居ないとな! などと思われましたら、ぜひとも【★評価とフォロー】をお願いいたします。


第5章は、悪徳商人との商談バトルが見どころでございます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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