冒険録29 悪友はすぐに勘違いするぞ!

 骸骨をお宝に変えたところで、俺たち四人は気を取り直して森の出口に向かって歩き始めた。他に魔物がひそんでいないか警戒けいかいしつつも、この世界に詳しそうなヤスと情報交換すべく、歩きながら会話を進める。


「……そっか、大地らはついさっき飛ばされてきたんだな」

「ああ、目覚めた時はあせったぜ……」


 しかも夕のフカフカお腹の上だったしな! もちろんヤスには言わんけど!


「ルナちゃんにはびっくりよねぇ」

「あーそれそれ。そのすんげぇヤンチャなチビっこは一体?」


 ヤスが俺のかた腰掛こしかけるルナを指さし、ついさっき妖精弾(弱)を被弾した眉間みけんこすっていると、


「おしとやかなれでぃ・・・なのー!」

「へぶっ!」


 失礼な事を言うのどにはお仕置きとばかりに、即座そくざにフライングヘッドバットがさった。……ルナよ、今回のヤスの評価に関しては割と適正だと思うぞ?


「ルナちゃん!」

「あぅっ……」


 お転婆てんばが過ぎて夕ママにまたしかられると思ったか、ルナはしゅんと身体を縮める。


「――もう少し手加減してあげてね?」

「はぁーい!」

「ちょちょ、夕さん!? そもそも僕に攻撃しないように言ってもらえませんかねぇ!? 暴力反対っ!」


 無慈悲むじひな攻撃許可を聞いたヤスは、両手で目の前をチョップしつつ猛抗議もうこうぎしている。ルナに攻撃されるような粗相そそうをしなければ良いだけでは……まぁヤスだし無理か。


「うふふ。これも幼いルナちゃんなりのスキンシップだと思いますから、大目に見てあげてくださいね? ――んとまぁ、あたしも最初に二回ももらいましたし、お仲間ですよぉ。あはは……」

「む、むむぅ……しょうがないなぁ」


 子供のやることと思って、ヤスはしぶしぶながらあきらめたようだ。ヤスにはとしの離れた妹もいるし、幼子おさなご理不尽りふじんさには慣れているのかもしれない。

 

「それでこのヤン――オシトヤカなおぜうさまは、妖精……でいいの?」

「ああ。本人もそう言ってるし? ……その様子だとめずらしいんか?」

「んだね。ファンタジーな世界だし、どこかには居るかもしれんけど、少なくとも僕は初めて見た」

「へぇ」


 カレンは世界のかくと言っていたし、やはりルナは特別で例外的な存在のようだ。


「それとさ? 僕の聞き間違えかもしれないんだけど……夕ちゃんのこと、ママって呼んでなかった?」

「あ……それは、えとぉ……」

「むふー! ままとぱぱなのー!」


 言いよどむ夕をよそに、ルナが俺と夕の周りを自慢じまんげにグルグル回り始めた。


「ちょ、おま、はああぁ!? パパママだとぉぉ!? 二人の愛の結晶けっしょうかよっ!!! おいおいおい、僕がいない間にどんだけ進んでんだっ!? んうおおお、めでてぇなぁ! 帰ったら宴会えんかいだなっ!!!」

「てめぇ何アホな勘違かんちがいしてやがんだ!? どうやったら人間から妖精が生まれんだよ! ちったぁ考えて発言しろや!」

「そうですよ! まだそんなことにはなってません! もう少し大人になってからです!」

「ちょぉ――」


 夕さん? お願いだから落ち着いてね? 自分が何言ってるか分かってるかなぁ?

 めずらしく夕までポンコツになってしまい、ボケ過多かたのカオスな状況じょうきょうに頭を抱えるしかない。


「はぁ……夕がめっちゃなつかれてて、ママって呼ばれてるだけだ。んでそのついでに俺もな?」

「あ、そう。――ちぇっ、なんだよ。ぬか喜びじゃんか! 僕のワクワクを返せっ!」

「んなもん知るかっ!」


 いつも通りではあるが、なんてアホで面倒くさいヤツだ。これなら記憶喪失のままの方が、まだマシだったかもしれないな。




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