冒険録27 記憶喪失にはショック療法だ!

 別に大してうれしくはないものの、カレンに引き続いて悪友ヤスと再会を果たした。ただ、記憶きおく喪失そうしつという無駄むだに面倒くさい状態異常付きではあるが。


「あー、俺は宇宙こすも大地だいちだ。本当に覚えてないのか?」

「いやぁ……なんかすまんなぁ。コスモダイチ、すごく聞き覚えはあるんだけど……ん? そうだよ、コスモだよ!」

「は?」


 宇宙こすもだが何か?


「コスモ神と同じ名前を名乗るとか、なかなか大それた事するよな?」

「俺が付けたんじゃねぇし、名乗りたくて名乗ってんじゃねぇよ!」

「え、本名なの? マジ?」

喧嘩けんか売ってんのかてめぇ!?」

「すまん!」

「ったくよ……」


 またヤスと名前ネタのやり取りをする日が来るとはな……みょうなつかしくはあるが。

 あとまさかの異世界の神様の名前がコスモと……つまり俺は、神様とは違うがキリストやらブッダやらと名乗ってるようなおそれ多いイタイヤツになる訳か。そうなると、この世界では迂闊うかつ苗字みょうじを明かさず、大地のみで通す方が賢明けんめいかもしれない。――まぁ、日本でもできるだけ名乗りたくないキラキラ苗字なんだけどな! 俺もタイムトラベルさせてもらって、名乗り始めた先祖をしばきに行きたいわ。


「――んじゃまぁ大地で。お前はそう呼んでたし。ちなみに、お前が高校生だったこととかは覚えてるか?」

「え、そりゃ銀ヶ丘高ぎんこうの三年――ん? 僕は剣士ヤッスで……あんれっ? 僕何言ってんだぁ?」


 ヤスはしきりに首をかしげて、自身の発言の矛盾むじゅんに混乱している。もしかすると、異世界に来てからの記憶とごちゃ混ぜになっているのだろうか。


「うーん……」


 これは実に面倒くさいなぁ……もう放っといたらダメかなぁ……んまぁそれは流石さすがにヤスでもあんまりか。一応こいつにも色々と借りがあるしな。

 そこで骸骨の残骸ざんがいへ目を向ければ、もやは依然と大人しくしているようなので、夕に助けを求めてみることにする。


「おーい夕! ちょっと来てくれるか?」

「はぁーい」


 夕が隠れている近くの木に呼びかけると、護衛ごえい(?)のルナと共に裏からひょっこり顔を出す。


「え、靖之やすゆきさん?」

「ああ。でもなんか記憶喪失っぽい」

「うそっ、一大事じゃないの!」


 そうして夕が心配そうに近寄るなり、


「うおおおぉ! なんって美しくも可愛いらしいお嬢さんだあぁぁ!」

「んえぇ!?」


 ヤスは発狂はっきょうしてさけび始めた。ある意味平常運転。


「ああ、可憐かれんな大木の君よ!」

「ちょ、またそれですかぁぁ!?」


 俺とヤスが夕の名前を知らなかった頃に、電柱のかげから現れた夕を「電柱の君」としょうしてしかられていたのを思い出す。記憶を失っても発想は同じになるんだな……そりゃ本人だしそうか。


「あのぉ、靖之さん? 頭のどこか具合が悪いんですか?」


 この営業スマイルからり出される言葉のとげよな。


「ああっ! こんな僕を心配してくれるなんて……マイエンジェル!」

「ひぃっ!?」


 皮肉も全く通じず、ガバッと両手を広げて天をあおぎつつ歓喜かんきに打ちふるえるヤスに、夕は完全にドン引きしている。記憶が錯綜さくそうして、アホが悪化してる? ――いや、こいつは元々こんなもんだったかな。

 さらにこのアホは、夕に向かってボーリング投球ポーズをすると、


「結婚してください!!!」


 なんとプロポーズしやがった。


「絶対無理です」「てめぇ調子に乗んなよ!?」「ままはあげないのー!」

「へぶれあっ!!!」


 その瞬間、夕からの冷たい一言、俺からの宇宙こすも正拳せいけんき、そしてルナからのフライング・ヘッドバットの三連撃れんげき炸裂さくれつし、ヤスは宙をうこととなった。


「……はぁぁ~。記憶がなくても相変わらずだわ……」

「それな」


 二人であきれながらも、二mほど吹き飛んだヤスへと近付く。するとヤスはむくりと起き上がると、


「――はっ! この容赦ようしゃないお断りと身体のしんまでひび無慈悲むじひなパンチ! それに眉間みけんするく突き刺さる痛み――は知らんけどぉ!」


 身体をガクガク震わせて何事かを叫び始めた。……しまった、衝撃しょうげきでいよいよパーになったか?


「………………あれ? 大地に夕ちゃん、こんなとこで何してんの?」

「えっ! ……あの、あたしの名前は分かりますか?」

「んんん? 天野あまの夕星ゆうづ、夕ちゃんだろ?」

「ええ。思い出してくれましたか」

「おお、治ったか。良かったな」


 悪化したかと思いきや、むしろショックが効いて治ったらしい。たしかに、頭への衝撃で記憶喪失になったり、逆に治ったりというのは良く聞く話だ。そうなると、またしてもルナのお手柄てがらかもしれないな。よし、ヤスへは積極的に体当たりするよう教育していこう。




【140/140(+5)】

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