冒険録26 主人公が連続魔法を唱えた! (挿絵有)

 ルナの大活躍かつやくで目の前の危機は去ったものの、相手はあのタフな骸骨なので、もちろん気をゆるめる訳にはいかない。それで骸骨を注意深く観察しつつ次の一手を考えていたところ、


「……え? 僕、生きて、る?」


 剣士が戸惑とまどいの声を上げて、キョロキョロ周囲を見回し始めた。


「ってこいつ右手どっかいってるじゃん! よっしゃぁ、今だぁ!」


 さらには丸腰まるごしの骸骨を見て好機と思ったのか、へっぴり腰の剣で切りかかろうとしている。――これはマズイ、ヤツはもやに護られて生半可な攻撃は通じない!


「油断するなっ! そいつはちょう頑丈がんじょうで再生までする! 一旦いったん下がれ!」

「え? そうな――ぐふぁっ」

「なにぃぃっ!?」


 なんと骸骨から黒いもやが高速で飛び出すと、吹き飛んだ右手首を引き寄せ、その軌道きどうに居た剣士の頭へと衝突しょうとつさせて昏倒こんとうさせた。


「まじかよ……」「あんなのアリぃ!?」


 骸骨に取り付く魔素まそによる再生のようだが、河原で見た時とは比べ物にならない速度だ。やはり薄闇うすやみの中ではけたちがいの強さであり、これがこの骸骨本来の力……騎士きしクラスでも手を焼くという話もうなずける。

 それでこちらがあわてふためく中、手首が再生した骸骨は倒れた剣士に向かって骨を振り上げており、先ほどの焼き増しのような状況になってしまった。


「――っルナ! 首に飛び込めぇ!」

「はいなのー!」


 骸骨の急所は定かではないものの、知性が強さに関わるということは頭部が重要部位に違いないと推測し、向こう側で構えていたルナに向かってさけぶ。ただ、骨だけとは言っても、幼女に首をねさせるのは情操教育的に少々マズイ気もするが……そもそも骸骨は生物ではないし、剣士の命もかかっていることだ、大目に見てもらおう。


「【ふぇありーばれっとぉぉー!!!】」


 折り返してきたルナが骸骨の頸椎けいつい激突げきとつし、頭部である髑髏どくろをこちら側へと弾き飛ばした。

 ――よしっ、すぐに次の手を考えろ、大地! 髑髏が急所と仮定して、もやを破って攻撃するには…………これだ!


「――夕っ、魔法!」

「え――うんっ! 【すっごく元気になぁれ~♥】……こほん、五十よ!」


 即座そくざに意図を察した夕は甘々ボイスで活力魔法をかけ、少し照れた表情のました声で力の残量を告げる。一で十を理解してくれて、本当に頼りになる子だ。

 黄金の光をまとった俺は、ゴロゴロと地面を転がってくる髑髏に向かってけ出し、それを右手ですくい上げながらも疾走しっそうする。向かう先は……剣士の手前に転がる盾!


「――の前に、まずは防御を崩すっ!」


 走りながらも髑髏の暗い眼窩がんかに右指二本を突っ込むと……


「きんもっ! ってイダダダダ!」


 ぬめぬめした感触かんしょくと共にするどい痛みが走り、全身に鳥肌とりはだが立つ。夕の魔法がかかっていなければ、取り落としていたところだろう。


「くらえ、【閃光フラッシュ!】」


 すぐさま指先から光を放つイメージで詠唱すると、髑髏の内部から眩い光があふれ出し……指の痛みが和らぐと共に、髑髏をおおっていたもや霧散むさんした。

 

「おっし! 次は【防護プロテクション!】――のもっかい【防護プロテクション!】」


 連続で自身の右膝小僧ひざこぞう、次いで地面に転がる金属の盾に空いた左手を向け、防護バリアをイメージした魔法をかける。五十分の力で三回の魔法行使に足りるか不安だったが、盾も膝も無事にあわく青い光を放った。――薄いが上出来だ。さぁ大技をお見舞みまいしてやるっ!

 即座に盾の手前で思い切り真上へ飛び上がると、曲げた右膝に髑髏をえて真下へ向け、


「くらええぇぇぇ!!!」


 三m近い高度から金属盾中央の突起とっきを目掛けて垂直落下した。


 ――ゴワァァン!!!


 強化された膝と金属盾に激しくはさまれた髑髏は、一際ひときわ大きな金属音をひびかせてバラバラにくだけ散った。


「……どうだぁっ!?」


 飛び退いて確認すれば、砕けた髑髏から流出した黒いもやは地面に広がったまま動く様子がない。胴体どうたいはどうなったかと目を向ければ、近くのした剣士の前で骨を振り上げたまま棒立ちになっており、すぐにかわいた音を立ててくずれ落ちた。どうやら予想通り髑髏部分が骸骨のかくだったのか、それがバラバラに砕かれれば再生できないようだ。

 

「よぉしっ!」


 俺のガッツポーズを見て夕が近寄ってきたが、まだ油断は禁物と制止の合図を送ると、ササッと木のかげかくれてくれた。


「次は……剣士さん、大丈夫ですか!」


 昏倒していた剣士に駆け寄って、安否を確認する。


「う、うーん……あれ? 化け物は?」


 剣士はむくりと起き上がって、手首を強かにぶつけられた後頭部をさすりつつも、逆に問いかけてきた。どうやら大事に至っていないようで一安心だ。


「ヤツなら、俺が倒しました――ってえええぇ!?」


 そこで剣士の顔を間近で注視した俺は、仰天ぎょうてんしてさけぶこととなった。 


「お前……ヤスだよな?」


 目の前の剣士は、ヤス――クラスメイトで悪友の天馬てんま靖之やすゆきだった。良く良く聞いてみれば、同じ声で同じしゃべり方をしている。


「え? ヤス……はちょっと違うぞ? 僕はヤッスという名前なんだけど?」

「はあ~!? またこのパターンかよ!? おいヤス、てめぇふざけてんじゃねぇぞ!?」

 

 カレンとはちがって優しく気をつかい合う仲でもないので、胸ぐらをつかんで立ち上がらせると、容赦ようしゃなくさぶってやる。


「ちょちょちょ、たんま! 全然ふざけてなんかないし、いきなしキレ出されても困るんだけど!? ……あー、ひょっとして、僕ら知り合いだったりする?」

「……は? おいおい、まさか俺がだれか分からんとでも言う気か? んな使い古しのしょうもないネタは要らんぞ?」


 どうにも様子がおかしいヤスにそう言ってはみるものの……その表情はいぶかしげなものであり、いつものような冗談じょうだんを言っている顔には見えない。


「ええと……なんだかなつかしい感じはするんだけど……どちらさん、でしたっけ?」

「ちょ、マジかよぉ……」


 異世界で再会した悪友ヤスは、まさかの記憶きおく喪失そうしつだった。




【135/135(+15)】




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ハピスパ本編の立ち絵ではありますが、よろしければご覧ください。

天馬靖之:https://kakuyomu.jp/users/mochimochinomochiR/news/16816452221405910534


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第4章半ばまでお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


ルナちゃん可愛いだけじゃなく強いな! 大地君の連続魔法カッコ良かったぜ! などと思われましたら、ぜひとも【★評価とフォロー】をお願いいたします。

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