冒険録25 妖精さんの初陣だぞ!

 想定外のアクシデントはあったものの、俺達は無事にのどうるおいを取りもどし、意気いきようようと森の出口に向かって歩いていた。ただルナだけは、俺のかたをうつせで抱きながらぐんにゃりしており……ひたすら代わり映えのしない景色に、少々退屈たいくつになってきたのかもしれない。もちろん俺と夕は、どこに野生動物や魔物がひそんでいるか分からないので、油断せずに歩みを進めている。

 するとそこで……


 ――ガンッ ガガンッ ガゴン!


 鈍器どんきを金属にぶつけるような音が前方から聞こえてきた。その音は断続的にひびいてきていることからも、自然現象ではないように思え……この先に人間、もしくは野生動物や魔物でもいるのだろうか。


「……何の音だ?」

「気味が悪いわねぇ……進む?」

「ん。けて回り道する手もあるが……それだけ余計な時間がかかるし、正体が全く分からないものを放置しておくのも不安が残るよなぁ」

「そうね。カレンさんは、基本的に危険な魔物は居ないって言ってたし……気を付けながらそっと様子を見てみましょ」


 夕とうなずき合い、念のため肩のルナを軽く突いて起こしておく。

 それで周りに注意を払い警戒けいかいしつつ、恐る恐るゆっくりと先へ進んでみると……二十mほど前方に二つの人影が見えてきた。まだ遠い上に暗がりで分かりにくいが、一人は短い剣と小型の盾を持った剣士風の人物、そしてもう片方は……二m近い長身で右手に骨を持つ左うでの無い骸骨妖怪だった。特徴とくちょうからして、先ほど戦ったヤツに間違いない。


なつかしいツラだな」

「ふふ、表情ツラはないけどねぇ」


 二㎞も離れた河原に居たヤツが進路上にジャストで現れたとなると、俺達を追ってきた可能性が高い。……ストーカーかな?


「ひいぃぃ! 何で森にこんなヤベー化けもんがいるんだよ!? 聞いてないんだけどぉ!?」


 ――ガンガンガン ゴン!


「っちょま! こんなん僕にはムリだってば!」


 どうやらその剣士は骸骨と戦闘中のようで、二m近い長身から連続で振り下ろされる骨を必死に盾で受けているが、その苛烈かれつ殴打おうだに押されて完全に防戦一方になっている。


「パパ! 苦戦してるみたい、助けてあげよ?」

「だな。――そこの剣士さん! 助けは要りますか!?」


 素人が余計な手出しをして状況が悪化したらマズイので、念のため確認しておく。


「っえ、うそっ、こんな森に人!? あんたは神かっ!? お礼に何でもしますから、どうか助けてください!!!」


 相当に危機的状況状況なようで、剣士はこちらに背を向けたまま必死に助けを求めてきた。これは急がないとだ。


「ルナいくぞ! 夕、時計!」

「むふー! がいこつやっつけるのー! ぱぱのかたきなのー!」


 義憤ぎふんに燃えてくれるのはうれしいが、俺死んでないからね?


十分じゅっぷん増の一時五十分の満タン! ――え、さらに五分増えた!?」

「なにっ――後だ。【瞬速インスンタント・アクセラレーション!】」


 大急ぎで速度増加魔法をけると、すぐにルナの全身が青い光におおわれる。

 

「ぐぁっ! しまっ――」


 そこでひびいた大きな衝撃しょうげき音へと顔を向ければ、剣士は盾を弾き落とされて無防備な身体を骸骨の前にさらしていた。


「――手をねらえ!」

「んっ!」


 即席そくせきの指示を受けたルナが飛び出した時には、骸骨は剣士の頭蓋ずがいへと致死ちしの一撃を振り降ろそうとしており……もはや剣士自身では回避かいひも防御もかなわない。


「間に合えぇ!」「頑張れぇっ!」


 俺と夕がいのる中、急加速したルナは青い光の尾を引いて二十m先の骸骨へとき進む。そして……


「【ふぇありーばれっとぉぉー!!!】」


 ドップラー効果で普段より低いルナの声が届いた時には、青い流星は骸骨の右手をとらえ、見事に手首ごと武器を弾き飛ばしていた。振り降ろされた手首の無い右腕は、剣士に触れることなく空を切る。


「っし!」「やったぁ!」


 ひとまず骸骨の無力化に成功し、ホッと胸を撫で下ろす。今のは本当に危なかったところで……後で夕と一緒いっしょに、ルナの頑張りをめちぎってあげないとだな!




【120/120(+10)】

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