冒険録23 主人公達が干からびそうだぞ!

 意気いき揚々ようようと森に入った俺たちは、骸骨をはじめとした魔物を警戒けいかいしつつも、南へ向かって足早に歩みを進める。相変わらず薄暗うすぐらいものの、一度通って少し慣れた道ということもあり、先ほどよりも随分ずいぶんと歩きやすく感じる。

 そうして三十分ほど歩いたところで……


「ねぇぱぱー、のどかわいたのー!」


 かたに乗っていたルナが俺の首をペチペチたたいて、水が欲しいとうったえてきた。


「そのぉ、実はあたしも……」

「そうだよなぁ」

 三人とも目覚めてから一滴いってきも水を飲んでおらず、特に俺は骸骨から必死に逃げ回ったこともあり、正直のどはカラカラだ。幸い気温が高い訳でもないので熱中ねっちゅうしょうになる程ではないが、このままだと三人とも体調をくずしかねない。ルナの流体のようなかみも、心なしか少し動きがおそくなっているように見える。


「さっき逃げた先――東へ二、三㎞くらいのとこに川があったが、どうする?」

「むむむ、川の水かぁ……ひ弱な現代日本人のあたしたちが飲んで平気かはあやしいよねぇ。それと川沿いの明るい道を歩くの自体は良い案だけど、かなり遠回りなのが難点かな」

「ああ。カレンは広くない森と言っていたし、下手に動き回るよりこのまま最短ルートで突っ切りたいよな……森を抜けてもゴールじゃないしさ?」


 この薄暗い森を子供の足で歩くとなると、急いでも三十分以上はかかるだろうし、飲めるか分からない水のためだけに割くには少々リスキーだ。


「それと川原は骸骨をバラバラにした場所だから、まだその近くに居る可能性も高い」


 先ほどはリベンジマッチと意気込んではいたが、危険回避かいひという意味でも時間節約という意味でも出会わないにしたことはない。


「うん、このまま進みましょ」

「んだな。そうなると水はしばらく我慢がまんか」


 二人でそう結論付けたところで……


「やだー! るなのどかわいたのーーー!」


 目の前に飛び出した幼女妖精さんが、両手をり上げてほおふくらませる。


「おいおいルナ、そう我儘わがまま言うなよ。無いもんは仕方ないだろ?」

「むー! やーだー! おーみーずーのーみーたーいーのー!」

「んなこと言われてもなぁ……」


 ルナは宙に浮かびながらあお向けになり、器用に両手両足をバタつかせている。……困った、由緒ゆいしょ正しき駄々だだっ子を発動されてしまったぞ。理屈より感情で動く幼子って、どうやって説得したらいいんだ……俺には参考になるような歳下とししたの兄弟もいないし、ましてや娘なんて――いるけど俺より優秀ゆうしゅうな娘だしなぁ。


「んもぉルナちゃん、あんまりパパを困らせちゃダメだよ。ママとパパもすっごく喉が乾いて辛いけど我慢するから、ルナちゃんも頑張って欲しいな? 水が見つかったら、最初にルナちゃんにあげるからね?」

「……わかったの。るなもがんばるのー!」

「ふふ、えらいわね」


 戸惑とまどう俺をよそに、夕は母力ままぢから発揮はっきしてふくれる駄々っ子ルナを一瞬でなだめてみせる。……なるほど、子供には共感を示してあげることが大切と。勉強になります。



   ◇◇◇



 そうして進路を変えずに南へ再び歩き出したは良いものの……下手に水の話をしたこともあって、精神的にも辛くなってきた。となりの夕を見れば、明らかに元気がなく口数も少ない。好きな時に水が飲める環境にいた現代日本人の俺達には、いつ水を入手できるか分からないという状況じょうきょうは正直かなりこたえる。異世界冒険とは、楽しいだけでなく、こうした苦しいことも沢山あるのだろうな。

 それでどうにか別の手段で水を入手できないものかと考えていたところ、


「いっそ雨でも降ってこないかしらねぇ」


 夕のつぶやきが耳に入る。


「ははは、神様に――いや、魔王様に雨乞あまごいでもしてみるか? ――ってそうだ!」


 それを聞いた俺は、あるカレンとのやり取りを思い出すのであった。




【102/102(+1)】

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