第4章 月と金星と悪友参上

冒険録22 ヒロインの時計は時計にもなるぞ!

 そうしてお節介せっかい魔王様のオンライン魔法講座を受講し終えた俺たち三人は、おかげ様で危険な魔物への対処法を身につけることができた。実にぶっそうな世界ではあるものの、この願いの力を上手く活用していけば、ぼうけんの先行きも明るくなるだろうと期待している。

 それからカレンが魔法講座の他にこまごまとした追加アドバイスをくれたところで、そろそろお開きと言った雰囲気ふんいきになってきた。


『さて、あとは実践じっせんを積むことだね。しっかりと可愛い娘達を守ってあげるのだよ、パパ殿どの?』

「もちろんだ。任せとけ」「あたしも頑張りますっ!」「るなもー!」

『うむ。艱難かんなんなんじを玉にす――異世界のあらなみに転がされて、ピカピカファミリーになりたまえ』


 最後にカレンは、講師らしく有りがたい訓示でめくくった。


『――ではわたしはこの辺で失礼。こう見えて色々と忙しい身なものでね』

「ああ、色々とありがとな!」「本当にありがとうございました!」「かーちゃんまたねー!」

『ふふっ、キミ達に素敵な異世界冒険ライフを!』


 受講生一同のお礼を受け、カレンがニヤリと口のを上げてサムズアップをしたところで、ホログラムスクリーンがシュンと閉じられた。


「――ふぅ。いつも通り色々としち面倒めんどうくさい魔王様ではあったけど、アドバイスは大助かりだったな」

「ほんといい人過ぎるわよねぇ。んー……でもさ、いずれはカレンさんと戦うってこと……だよね?」

「うーん……」


 ひとまずの目的は冒険をしつつ魔王を倒すこととなっているが、お友達を倒す気になんて全くなれないし、そもそも勝てる気が一ミリもしない。夕も同じ考えなのか、なやましげなため息をく。


「――んまぁカレンのことだ、このお題にも色々と意味があるんだろうよ。今は成るように成れでいこうぜ?」

「ふふっ、それもそうね? ――よぉーし、さっそく森に再チャレンジ……の前にっと」


 夕が言葉を切って懐中かいちゅう時計を開くと、力は一時四十分を示していた。また三十分も増加し、合わせて全回復している。


「相変わらずなぞだなぁ」

「だねぇ……」


 ゲーム的な思考をすれば、俺の魔法が成功することで熟練度的な何かが上がったから……? でも夕が失敗した時もたくさん増えたし……うーん。


「でもこれで戦う準備は万端ばんたんね? あと、たしか……」


 続けて夕が文字もじばん中央のボタンを押すと……三本の針がグリンと回り、十五時半過ぎを示した。


「お、ちゃんと変わった。時計があるのはでかいよなぁ」

「ええ。魔改造されたのはちょっとアレだけど、便利になるのはだいかんげいよ」


 実は先ほどカレンから、力の計器と通常の時計の切りえ方法を教わっていたのだ。


「それと一日の時間や気候など諸々の環境かんきょうは、日本と大体同じって言ってたわね。今は五月ごろらしいから、にちぼつは十八時半頃……おとと、あんまりのんびりしてられないよ!」

「おお、もうそんな時間か」


 魔法講座は絶対に必要なものだったが、少々時間を使い過ぎたかもしれない。魔物は光に弱いと言っていたので、何としても明るいうちに森を抜けたいし、できれば街などの安全な場所まで辿たどり着いておきたいものだ。


「じゃぁ、善は急げで出発よぉ!」

「しゅっぱつしんこー!」

「ああ、見てろよ骸骨がいこつめ! しっかりとお礼参りしてやんぜ!」


 一度は骸骨から逃げ帰った俺達だが、新たに得た魔法という武器を手に、きたるリベンジマッチへととうを燃やすのであった。




【現在の願いの力:101/101(+1)】

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