冒険録21 主人公はすでにパパだった!

「ままー!」

「はいはい、なぁにルナちゃん?」

「なんでもないのー!」

「うふふっ」


 こうしてママ呼びを認めさせられてしまった夕ではあるが、より一層いっそうなついてくるルナが可愛くて仕方ないらしく、もはや呼称こしょうなどどうでも良くなっているのかもしれない。それはまるでなかむつまじい本当の母娘の会話のようで、こちらまでほおゆるむというものだ。……まぁ、パッと見は幼女二人がじゃれ合ってるだけだが。


『くくく。かーちゃんのわたしに続いて、また母が増えてしまったね、ルナ嬢?』

「かーちゃんはままじゃないのー! おともだちなのー!」

『おっとこれは手厳しい。では、善き友人と成れるよう努めたいものだ』


 どうやらルナ判定では、カレンより夕の方が母力ままりょくが高いようだ。完全無欠の魔王様が負けるのはめずらしいな、ハハハ。まぁそれだけ夕が凄いということでもあるし、どこか嬉しくなるな。


『――キミぃ、何だねそのニヤケづらは? さては何か失礼なことを考えているね?』

「あ、いや、そんなことは……ナイデスヨ?」


 バレた。魔王様にかくし事はできない。


『ふーん………………』


 あわてる俺を見たカレンは、まゆひそめて考え事をし始めた。

 マズイぞぉ……これはカレンがはかりごとをしている時の、お決まりの台詞と仕草。いわば超必殺技の発動待ち時間のようなもの。過去の経験によれば、この後すぐに俺は成敗されることになる。……もうだめだぁ、おしまいだぁ。


『――ああ、ときにルナ嬢。わたしがお友達となると、大地君もお友達なのかい?』

「え、そりゃそうなるんじゃ? いやまぁ、この中で俺だけ友達未満と言われたら、割とショックだけどな!」


 どんなたくみな手で俺を成敗してくるのかとビクビクしていたのだが、ごく普通の質問だった。

 そうして安心していたところ……


「ぱぱはぱぱなのー!」

「ちょぉ!? なぜに!?」


 ルナから想定外の答えが返り、俺はカレンの目論見もくろみ通り仰天ぎょうてんすることになってしまった。

 夕のママに続いて、まさか俺までそういうあつかいになるとは……正直なところ、ルナにそこまで気に入られることをした覚えがないんだが。


『くくっ。可愛い娘が増えて、キミは実に果報かほう者だねえ』

「んなポンポン増えてたまるか!」

「ええ、パパはあたし専用です! ルナちゃんはダメっ!」


 夕の発言はどこかズレている気もするが、加勢してくれるならこの際なんでもいい。


「でもぉ、いつもぱぱってよんでるのー!」

「……んんん?」


 どういうことだ……多少慣れてきたものの、やはりルナと意思いし疎通そつうを図るのは難しい。なので俺はカレンの方をチラ見してみると……少ししぶい顔をした後に通訳してくれた。


『んー……ママとなったゆーちゃんがいつもパパと呼んでいるのだから、と言いたいのだろうね』

「ああ! ってそう来たかぁ……」


 たしかに、一般的な夫婦と子供ではそれが自然――って夫婦じゃねぇから! 俺と夕は父娘おやこ――も正確には違うけどさ!?


「そういうことなら…………うふふふふ♪」

「……え?」


 そこで夕がニヤニヤとあやしげな笑みを浮かべ始めた。


「うんうん、いいわねぇ! 素敵だわっ! ルナちゃん、パパって呼んであげて!」

「はーいなのー!」

「うそやろぉ!?」


 まさかの夕の寝返りで、二対二から一対三になった。なぜだ信じられん。


『ふふ。こうして世界のかくであるルナ嬢が望んでいるのだから、かなえてあげるべきでは? きっと良い事があると思うよ?』

「そうそう! ねぇルナちゃん、パパにもっかいお願いしてみよっか?」

「うんっ! るな、ぱぱがいいなぁー? だめぇ?」

「『ほらほらー!』」

「ちょ、おまえら! 寄ってたかって……」


 息つく間もない連続口撃にさらされる俺。四面しめん楚歌そかならぬ三面楚歌状態。……でもあきらめるな、大地!


「くっ……ダメだ、何と言われようとこれはゆずれん! パパ呼びは一人で充分だ!」

「「むぅ~けちぃ~!」」

『ああ、まったくキミときたら……さては気付かないフリをして自分をもしているのかね?』 

「……なんの事だよ?」

『うーむ、えて言わないでおいたのだが……この唐変木とうへんぼくのぽんぽこぴーにはハッキリと言ってあげるしかないようだ』


 カレンはやれやれとかたすくめると、俺をそのあかひとみで真っ直ぐにえてまねきする。俺が意図を察して時計に耳を寄せれば、


『(ゆーちゃんが喜んでくれる。ただそれだけで、キミに断る理由などなかろう?)』


 自明じめいであると言わんばかりに、そうささやいてきた。


『ほうれほれ~、キミにとってそれ以上に優先すべきことがあるものなら言ってみたまえ? んん~? くっくっく』

「ぐぅ……」


 カレンの言う通り、これは一番の泣きどころで……大恩人である夕の望みはできる限り叶えてあげたいし、恩を抜きにしても純粋に夕が喜ぶところを見たいと思う。それをするどく察して利用してくるカレン……やっぱこの子魔王だわ!


「はぁ……もうわかったよ! 好きに呼んでくれぇぇ……」

「「『やったぁ~♪』」」


 華麗かれい連携れんけいプレイで俺を陥落かんらくさせた女子達は、きゃっきゃと勝利の喜びを分かち合っている。


「だーーもーー、どうしてこうなったあぁぁー!」


 なしくずし的にパパ呼びを認めさせられた俺は、またしても天をあおいでさけぶ。

 だがそこで、


「――ねぇパパ」


 呼び声と共に服のすそをチョチョイと下方へ引かれたので、少ししゃがんで夕と目を合わせる。

 すると夕は少し顔を突き出して……


「ありがとね」


 そう囁くと、目の前でとびきりの笑顔を見せてくれた。

 それを見た俺は、やはり敵わないなと思いつつも……それも悪くないなと思ってしまうのであった。



~ 第三章 月と金星と魔法講座 完 ~  



【100/100(本章での増加量+65)】



――――――――――――――――――――――――――――――――


 第3章までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


 夕ちゃんのママ力高すぎぃ! 魔王様超ド親切S! などと思われましたら、ぜひとも【★評価とフォロー】をお願いいたします。


 第4章は、骸骨とのリベンジマッチが見どころでございます。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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