第3章 月と金星と魔法講座

冒険録12 主人公が円周率を唱えた!

 俺達は冒険ぼうけん開始早々に骸骨がいこつ妖怪ようかい遭遇そうぐうしてしまったが、各々おのおのが全力をくした結果、こうしてだれ怪我けがをすることもなく合流を果たすことができた。遭遇時にしても俺の帰還きかん時にしても、この聡明そうめいで勇気ある幼女お姉さんの天野あまの夕星ゆうづが相方でなかったなら、これほど上手く事は運ばなかっただろうと思う。

 それで今は、小休止とばかりに三人で切り株へとこしけて、この森を出る方法について話し合っているところだ。


「あの骸骨に加えて他の魔物なんかも徘徊はいかいしてるだろうし、どう安全に抜けたもんか」

「ほんとそれよねぇ……」

「ただ、こんな魔物が居る森の中でグースカ寝てた俺達がおそわれなかったことからすると、予想通りここは特別な場所なんだとは思うし、それだけは救いだ。……かと言ってここで野宿する訳にもいかんけどさ?」

「うん。キャンプは好きだけど、着の身着のままはイヤだよぉ。それに確実に安全地帯とは限らないし、やっぱり襲われる前に脱出だっしゅつ――あ、そだった」


 夕は何かを思い出したのか、立ち上がって切り株の対面へと回ると、俺から回収した帽子を上に置く。ちなみにその帽子の中には、例の禁断の衣が封印されているぞ。


緊急きんきゅう事態になる前に着ときたいから、パパはちょっとだけ向こう向いててね?」

「おう」


 背後へ回していた上半身をもどしたところで、目の前の空中にじんったルナが「みはってるのー!」と言って蒼玉と金の目オッドアイを光らせる。……あのー、ルナさん? のぞいたりなんてしないから、そんな不名誉ふめいよな心配しないで欲しいかな? まさか、さっきの「えっち」発言を鵜呑うのみにしてないよね?

 そうして誠に遺憾いかんに思っていたところで、後ろの夕が着替え始めたのだが……


「!?」


 こっ、これはマズイぞぉ……! タイツが素足とこすれる音、一旦いったんいだブラウスを切り株に落とす音、キャミソールとブラウスに身体を通す音……どれもこれもみょうなまめかしく聞こえてしまう。というのも、普段の小さな夕が視界に無いせいで、本来の大人の女性としての夕を想像してしまって……いやいや、いかんいかん! と、とりあえず円周率でも数えて落ち着こう! 三点、一、四、一、五、九……ああ、一瞬で覚えてるとこまで数え終わっちまった! ――ってか耳ふさいだら良いだけじゃね……?


「お待たせっ!」

「うおぅ!」


 脳内でヴァーチャル大人夕と格闘かくとうしていたところで、着替きがえ終わったリアル子供夕からポンと背中をたたかれ、おどろきながら向き直る。


「……どしたの?」

「いや、数学の美しさを再確認するのに熱中していたところだ」

「ぷふっ、なにそれぇ~。変なパパ♪」


 夕は俺が動揺どうようしている理由に気付いていないようで、クスクスと笑っているだけだ。もし考えていた内容がバレたら、大よろこびでからかわれる未来しかないので助かったというもの。


「さてそれじゃ――」


 ――プルルルル


「「え?」」


 話を戻そうとしたところで、夕のポケットから電話の音が鳴りひびいた。

 この異世界に来た時に、どちらも携帯けいたい電話を持っていないことは確認しているので……これは一体どういうことだろうか?

 夕も不思議に思ったようで、怪訝けげんな顔を見合わせて首をかしげると、恐る恐るポケットへと手を差し入れてその発信源を取り出す。

 すると……なんとそれは懐中かいちゅう時計だった。




【?の力:38/38(+3)】

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