冒険録13 ヒロインの時計が魔改造されていた!

 ――プルルルル


 鳴りひびく電話の音は、夕が持つ懐中かいちゅう時計から発せられていた。


「ど、どゆこと? あたしの時計どうなっちゃったの!?」

「うーん……」


 ぜんまい仕掛じかけのクラシカルな機械式懐中時計に着信が入るという訳の分からない状況じょうきょうに、俺も夕もどうして良いか分からず顔を見合わせるばかり。


 ――プルルルル


 依然いぜんと鳴り止まない電話時計。このまま安全を取って放置という選択せんたくもあるが……あの着信は何だったのかと今後気にし続けることになり、精神衛生上とてもよろしくない。


「――ひとまず出てみるか?」

「う、うん……」


 そう思って提案してみれば、夕はおそる恐る金のおもてぶたを開いていく。

 すると……


『わたしだ』

「「はぁぁ~……」」


 届いた馴染なじみの声に拍子ひょうし抜けし、二人でがっくりとかたを落とす。どうやら、また黒幕子ちゃんが何かしやがったようだ。


「わははー、るなだー! かーちゃん、こんにちはーなのー!」


 ルナは相変わらず楽しそうで何よりだ。


『くくっ。開口一番にため息とは、随分ずいぶんなご挨拶あいさつだね? 喜んでくれるのがルナじょうだけとは、わたしさびしいなぁ……ヨヨヨ』

「はいはい。それで今度は何用で――ってそうだよ! お前んちの……かは分からんが、魔物に遭遇そうぐうしてえらい目にあったんだからな?」


 骸骨妖怪に殺されかけた身としては、上司と思われる魔王様に文句の一つも言わないと気が済まない。……おたくの社員さん、いきなりなぐりかかってくるとか、どういう教育してるんだね? ってなもんで。……まぁそれが魔物の仕事なんだろうけどさ!


『ふむ。事情を聞く前に……ゆーちゃん、文字ばんをクリックしてくれるかい?』

「え? はい」


 夕が言われた通りに指で触ると……


「「「おおー!」」」


 文字盤真上の空中に小さなホログラムスクリーンが現れ、そこにカレンの顔が映し出された。


『ふふっ、ビデオ通話も完備している。もう一度クリックすると消えるよ』

「す、すごい――って待って、あたしの大切な時計が勝手に魔改造されてます!?」

『まぁまぁ。便利になったのだし、それに元の世界に帰れば普通の時計に戻るから安心したまえ』

「それなら……いいですけどぉ」


 夕は渋々しぶしぶと言った様子で頷くと、腰高さ程の切り株の上に時計を置く。続いて三人でそれを囲むと、胸高さ辺りに映し出されているミニスクリーンをながめる。


『それで要件はだね、そろそろキミ達が何かしらお困りの頃だろうと思い、一つ手助けでもと?』


 え、この魔王様ってば、親切過ぎるのでは?  いやまぁ、目下超お困り中だったので助かるけどさ。


『しかしキミ達……まさかまだそこに居たとは。さてはその魔物におどろいて、引きもっていた口だね? まあ確かにそこは魔物が寄り付かない神聖な場所ではあるが……もう少し冒険してみても良いのではないかな?』


 やはり俺達の推測通り、切り株広場はそういう場所だったらしい。


「そうは言ってもなぁ、あんな凶悪な骸骨妖怪、武器も無しに勝てる相手じゃないぞ?」

『はて……骸骨?』


 慧眼けいがんなカレンにしては珍しく、まゆひそめて首をかしげている。……もしや御社おんしゃの方ではなかったのでしょうか? これは失礼!


『……そうか、キミ達は実に運が悪いようだ。この光が届かない森に限れば、アレは武装した騎士きしでも手を焼くレベルの魔物だよ』

「マジかよ!?」


 明かされた衝撃しょうげきの事実。そりゃ一般人の俺が勝てる道理はないわな。


『いやはや、よくぞ無事で居てくれた! 流石さすがはわたしの親愛なるお友達だ』

「そりゃどうも。――ってかさ、そんなヤベーヤツが居るなら、先に言っといて欲しかったぞ?」

『それは……一つ言い訳させてもらうと、アレはそう頻繁ひんぱんに生まれる魔物ではなく、他にも命に関わるような魔物は住んで居ない。それとこの森はそこまで広くもないので、かしこいキミ達ならば難なく抜けられるとんでいたのだよ。…………そのぉ、本当にごめんね?』


 カレンは眉を八の字にして、実に申し訳なさそうにしている。俺達に冒険はして欲しいものの、命の危機にさらされることは全く望んでいないのだろう。何とも矛盾むじゅんしている気もするが、不器用で心優しいカレンらしいかもしれない。……この子魔王に向いてなくね?


「あっ、いや、こっちこそ文句ばっか言って悪かった! 冒険なんだし、俺ら三人が頑張って乗りえないとだよな?」

『――ふふっ、やはりキミはとても優しくて強いのだね。これはゆーちゃんがベタれする訳だ、くくく』

「カレンさん!?」

「らぶらぶなのー!」

「ちょっ、ルナちゃんまで!?」


 夕は両手をわちゃわちゃ振ってあわてている。いつも自分からグイグイ言ってくるくせに、周りから言われるのはダメらしい。乙女心、ムズカシイネ!




【40/40(+2)】

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