冒険録14 お節介魔王のオンライン講座が始まった!

 夕がわちゃわちゃしている間に、骸骨との戦闘せんとうの一部始終を話しておいた。カレンは俺の取った各種行動についてしきりに感心し、「お友達として鼻が高いよ」と手放しにめてくれて、何とも照れくさかった。……その後に衣類回収の件で夕にしかられまくっていることは、もちろん内緒だ。


『――こほん。それでは、わたしの不手際ふてぎわのおびも兼ねて……魔物への対抗たいこうさくなどなど、色々と役立つアドバイスをさせてもらうよ』

「「お願いします」」「なのー」


 画面のオンライン魔王様講師に向かって二人でお辞儀じぎをすると、ルナも器用に空中で真似まねをする。ただ、その魔物の親玉と思われる魔王様から、魔物退治について親切なご指導をたまわるというのは、何ともおかしな状況ではあるが。


『ではまず魔物の性質について確認から。それは自然発生する大気中の魔素まそが動物の死骸しがい等に取り付いた事で生まれ、他の生物をおそう存在――とは言っても、普通は小動物に取り付ける程の量しか集まらないし、その程度なら難なく勝てるだろう。知性もほぼ無いからね』

「えーと、骸骨の中から黒いもやみたいのがみ出て来たんだが、あれが魔素ってことか?」

『そうだね。くだんの骸骨は、偶然ぐうぜん魔素が大量に集まって、さらに偶然森でお亡くなりになった人に取り付いた魔物だ。なので、墓地や戦場せんじょうあとなどの死体が沢山たくさんある場所ならともかく、こんな辺鄙へんぴな森ではそうそう発生し得ない魔物なのさ』


 なるほどな……その条件を考えれば、カレンがこの森を比較的安全とみなしたのも無理はない。


『また、対象生物が生きている状態で魔素が取り付くと強い魔物になるが、多くの量が必要となるので自然にはまず発生しない。それと人間のような知性ある生物に取り付いた場合は、特別強力な魔物になってしまうため、骨ですらキミが戦ったような強さになる』

「つまり……生物の大小と生死で取り付く魔素の量が決まり、その量に比例して強くなるが、加えて知性の分だけ強化される。あと予想だが、魔素やそれが取り付いた魔物は光に弱い……でいいか?」

『よろしですし~♪』


 最後の一オクターブ上の陽気でうれしげな台詞は、俺がカレンの質問に上手く答えられた時などに出てくるお決まりの褒め言葉だ。かしこいカレンに少し認められたと言えるので、純粋に嬉しくなる。


『……では次の話に移ろうか。ゆーちゃん、今何時なんじかな?』

「えっ? えーと――あら、止まってる?」


 俺も画面下の文字盤を注視してみると……十二時四十分を指し、銀の秒針は青の時針じしんに重なって止まっている。ここで目覚めた時に確認した十二時過ぎから、体感的に一時間以上は経過しているはずだ。


「とりあえずネジを巻き直し――」

『いや、正常に動作している』

「「え?」」

『今は時ではなく、とある力を計り取る計器となっているのだよ』

「またですかぁ!?」


 夕は大切な時計のさらなる魔改造に文句を言うが、カレンが可愛らしくペロッと舌を出して「めんごめんご~♪」と陽気に謝ると、「困った人だわぁ」とあきれつつも許してあげている。


「……で、とある力とは?」

『ふふ、それは秘密にしておこうか。さといキミ達ならば、すぐにでも気付くはずさ』

「ふむ……」


 夕はともかく俺は聡くなんてないが……まぁ追々おいおい分かることなのだろう。


『それよりも、まずはその計器の見方と利用方法の説明だね。端的たんてきに言うと、そのゲージが示す力を必要量使うことで……』


 そこでカレンはもったいぶってめると、


『あらゆる願いをかなえられる!』

「「「おおおー!」」」


 夢のようなとんでもない事を言い放った。


『くくく、期待通りの反応で嬉しいね。ただまあ、キミはすでに使っているようだけれど?』

「え……そうなのか?」


 当然ながら、そのような摩訶まか不思議な力を使った覚えなどない。


『ほら、先ほどの骸骨との戦闘で棒が光ったと言っていただろう? それだよ』

「ああ!」


 確かにあの時、「どうか一発はえてくれ」と願っていた。そうか、俺は意識せずその願いの力を使っていて、ただの棒があの凶悪な骨の一撃をギリギリ耐えてくれたということか。


『――さてそれで、折角せっかくの異世界なのだから、皆もそれらしい事をしてみたいだろう? ほうら、試しに叶えたいことを言ってみたまえ』

「そらをとぶのー!」

『ルナ嬢はすでに――ああ、二人と一緒に飛びたいのだね? もちろんできるとも』

「やったのー!」「すげぇ!」「素敵!」

『ま、それなりに溜まればだがね?』


 現代では空を飛ぶ方法などいくらでもあるが、自分の身一つで飛ぶというのは実にロマンあふれる話だ。


「えーと、もしかして……漫画で出てくるような、魔法とかも使えたりするのか? 例えば、手から火や雷を出したり、とか?」

『もちろん』

「うおお! マジかっ!」


 やべぇぞ、これは胸熱だ。少年は誰しもが一度は思い描くものだろうし、俺もその例にれず、幼少期にこっそりと部屋で魔法の呪文じゅもんさけんでいたのは内緒だ。


『男の子だねえ』「ふふっ、パパったらかーわいい♪」

「あっ、いや……ゴホン」


 これはずかしいぞ! でも、その少年心も分かって欲しい!


『ゆーちゃんはどうだい?』

「え、えーとその……――――――とか、できます?」


 そこで夕は懐中時計をくちびるに寄せて、カレンだけに聞こえる声でささやいた。


『ふふっ、乙女心だねぇ。ゆーちゃんときたら、なんと可愛い子なのだろうね? わたしがもらいたいくらいだよ』

「もっ、も~! からかわないで下さいよぉ……」

『ふふっ。特に照れている顔が最高に可愛いね』

「んもぉ、カレンさん! 冗談はそのくらいにしてください!」


 夕よ、実はカレンはその……だから、百%冗談じょうだんじゃないかもしれないぞ? 気を付けてな? とは言え、そんなことを口がけても夕には言えないが。魔王様に暗殺されてしまう。


「はぁ……それでどうですか?」

『ああ、もちろんできるよ。そこそこの量が必要だけれどね?』

「ほっ、ほんとですかっ!? よーしっ、すぐにその力を溜めにいきましょう! パパ、ルナちゃん、こんなところでのんびりしてる場合じゃないわ! 早く出発――」

『くくく。今のままでも充分じゅうぶん過ぎるほどだと、わたしは思うがね? それにほら、折角の異世界生活なのだから、ゆるりと道行きを楽しんで欲しいかな?』

「は、はい……急に取り乱してごめんなさい」


 夕はカレンにさとされ、呆気あっけに取られる俺とルナを見ると、しょんぼりとうなれる。何を叶えたいのかは分からないが、基本的に自力で解決しようとする夕がここまで望む事となると、よほど難しい願いなのだろうか。




【現在の願いの力:42/42分(+2)】

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