冒険録15 妖精さんは不死身らしいぞ!

『さて、計器の見方の解説にもどるとしよう』


 お節介せっかい魔王様のオンライン講座が再開し、受講者の三人は再度のお辞儀じぎをする。


『その時針じしん分針ふんしんは力の最大量を示していて、例えば今はれい時間四十五分の力がめられることになる。一方で秒針は力の現在量を表していて、時針と同じ読み方をする。今は時針に重なっているので、最大値と同じ四十五分の力が溜まっていると読み取れる。ここまでは良いかね?』

「えーと……願いに力を使うと、現在量を示す秒針は減少するけど、最大量を示す時針と分針は変化しないってことか?」

『そういうこと。ま、王道RPGゲームで例えると……最大マジックMポイントPと現在マジックMポイントP、に該当がいとうするかな?』

「なるほど」「うん……?」


 俺はRPGゲームをほとんどしたことがないが、未経験ではない。夕の方は全くないようで、例えにはピンときていないようだが、元の説明は当然理解しているだろうから問題ない。


『現在量は時間が経てば回復するので、必要な時はしまず使うと良い』

「了解」「はい」「わかったのー!」


 まだその力がどうすれば溜まるのかは分からないが、ひとまず計器の見方は理解できた。


『それでは次に、肝心かんじんの魔物への対策についてだ。まず誰が戦うのかだが……ゆーちゃんは論外だろう』

「そりゃそうだ」


 夕におもてに立ってもらうなんて、心情的にも戦術的にも絶対にありえない。


「うん……辛いけど、パパの邪魔じゃまにならないようにかくれてるしかないよね。でもパパが本当にピンチの時は、あたしがたてになってでも守るからねっ!」


 うちの娘、格好かっこう良すぎでは? しかも夕は、やると言葉にしたなら絶対にやる子だ。


「いや、そこは夕だけでも逃げて欲しいんだが……そう言ってもお前は聞かないよなぁ」

「当然よ!」

「デスヨネ」


 つまり夕を守るためには、俺はピンチにすらなれない訳だ。とにかく危険に巻き込まれないように、常に石橋をたたく気持ちで行動指針を決めないといけないな。


『――水を差すようで悪いのだが、相手がよほど弱いか突発とっぱつ的に遭遇そうぐうした場合以外は、キミも離れて構えておいた方が身のためだよ? 先ほどの骸骨との戦闘せんとうは実に大したものだったが、一歩間違えば死んでいたのだからね?』

「む、確かに……でもそうなると、戦う人が居ないぞ?」


 まさか魔王様が代わりに戦って……くれる訳ないよな。


『何を言っているのだい。ルナ嬢が居るではないか』

「「え?」」

「わはー! るながんばるのー!」


 ルナは空中で可愛らしいパンチをり出しながら、ふんすと鼻を鳴らしている。


「いやいやいや……ねぇよ!」

「そ、そんな……ルナちゃんに戦わせるくらいなら、あたしが戦うわよ!」


 無茶苦茶なことを言うカレンに、二人で猛抗議もうこうぎする。


『まぁまぁ落ち着きたまえ。戦術面はさておき、彼女の身を案じてのことであれば、それは無用の心配だ』

「え、そうなのか?」

『ああ。この世界のかくである彼女は不死身であり、その身が傷つくことすらない』

「ふじみなのー!」

「すげぇな……」


 とりあえず俺たちよりは丈夫らしいので、ルナに戦ってもらうのも……ありなのか? 幼女に守ってもらうというのは、どうにも心情的に抵抗ていこうがあるんだが。


『ただし……ある場合を除いてだが』

「え……それは?」

『絶望した時』

「「!」」


 身体は傷つかなくても、心は傷ついて死んでしまうということか。そのように精神と生死が直結していることは、幻想上の生き物である妖精らしい性質かもしれない。妖精は本来不死身であるが、人間から忘れられるにつれて存在の強度がうすれ、やがて消滅しょうめつする――物語で良く聞く設定だ。


『例えば、万が一キミ達のどちらかが死んでしまうようなことがあれば、間違いなく心が悲しみと絶望に染まって彼女も死ぬ。そして同時に、核を失ったこの世界も終焉しゅうえんむかえる』

「おうふ……」


 つまり俺達三人は一蓮いちれん托生たくしょうであり、しかも異世界破壊爆弾そのものと。――待てよ、これを逆手に取って、万一の時には「俺達を殺したらお前も死ぬぞ!」と言って魔物をおどしたら……いや、無駄むだだな。少なくとも骸骨は意思疎通そつうできる相手ではなかったし、仮に話せる相手であっても信じてくれる訳がない。


「たしか、終わりがおとずれると元の世界に戻れるって話だったが……これもその終わりに含むのか?」

『そうだね』


 そうなると、そもそも危険にさらすつもりは毛頭ないが、もし万一のことがあっても現実世界で夕を失うことにはならない訳だ。少しだけ安心した。


『だが、そのような戻り方をしたら……キミ達はひどく後悔することになる』

「そうか……」


 恐らく、これが先ほど言っていた「持ち帰れるもの」のことなのだろう。それが何かは分からないが、死んでしまうとそれがゼロになり、戻った時に後悔すると。


『だから絶対に避けて欲しいし、キミ達が幸せな終わりを迎えられることを切に願う』

「……ありがとう。きもめいじておく」「精一杯せいいっぱい頑張ります!」「やるのー!」


 そのカレンの真剣な声からは、心から俺達を案じてくれていることが伝わってきたので、俺達も相応の誠意を持って応えておく。


『ふふ、期待しているよ』


 するとカレンは、魔王らしからぬ優しい声でささやいて微笑ほほえんだ。

 その幸せな終わりを探すために、これから三人で頑張っていこう。俺はそう固く心に決めるのであった。



【44/44(+2)】

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