冒険録11 キケンなフリフリが現れた!

 俺は先を急ぎつつ、色々な意味で、早く広場に辿たどり着いてくれといのる。……というのも、現在残っている夕の衣類と、ここまでの夕の選択せんたく基準きじゅんから推測すると、もし次が来てしまったら……非常にマズイ。万が一この先に何かがぶら下がっていて、さらに万が一それが小さくてフリフリとか付いてたりするブツだったなら……視界に入れずにそのまま走り抜けよう! それはすでに視界に入っている気がするが、気のせいにしてな!

 何だか良く分からない覚悟かくごを決めつつ、タイツ&キャミソール・エンチャンテッドステッキをかたけて走っていると……


「っ!?」


 悪い予想は当たるもので、視線の先に小さくてフリフリした何かをとらえてしまった。

 その瞬間、俺はグリンと高速で下を向いてこしを曲げると、地面だけを見据みすえて走り続ける。


 フリフリダメ! ゼッタイ!


 無心むしんでそのブツの真下辺りを通過するのだが、ナゼかいつもの矢印が無く不思議に思ったところ、


「おかえりなのー!」


 真上から呼び声。


「フリフリがしゃべった!? ――ってルナか……おどかすなよ」


 確かにルナも、小さくてフリフリだった。


「むー! しつれーしちゃうのー!」


 顔の前に近寄ったルナは、両手を腰にほおふくらませる。


「すまんすまん。ルナ、待っててくれてありがとな。すごく嬉しいぞ」

「むふー! わかればいいのー!」


 純粋じゅんすいに本心からの言葉だったためか、ルナはすぐに機嫌きげんを直してくれて、その小さな手で俺の鼻先をちょんちょんと叩いてきた。くすぐったい。

 それでここにルナが居るとなれば、次は間違いなく夕か広場だろう。そう考えて、ようやく見えてきたゴールに安堵あんどしつつ、俺の肩にフリフリ――もといルナを乗せて足取り軽く進んで行くと……ついに森の切れ目となる明るい光が前方に見えてきた。

 そのまま広場に出れば、差し込む陽光ようこうに目がくらむが、少し待つと目が慣れてくる。夕は切り株の上で待っているだろうと予想して、前方に視線を向けるが……


「……あれ?」


 切り株どころか、広場のどこにもその姿は無かった。


「え……まさか、魔物に!? おおーい、夕ーー!」


 脳裏のうりよぎった恐ろしい想像に、あわてて大声でさけぶ。


「パパー! ああ、無事でよかったぁ……」

「!?」


 すると夕の呼ぶ声が聞こえ、安心すると共に疑問を浮かべる。やはり姿は見えないが、どこにいるんだ?


「上だよ、うえうえ~」

「……ああ、そうか」


 骸骨がいこつ遭遇そうぐうする前に、もしもの時は木に登れば安全だと言っていたことを思い出す。流石さすがは木登り名人。

 それで声が聞こえた数歩後ろの木を見上げたところで……


「っ!?」


 大慌てで後ろを向くことになった。

 夕は高さ三m強ほどの枝に立ち、こちらを見下ろしていたので……その、あれだ、見えてはいけないエリアがっ! せっかく第一次フリフリ危機を回避したというのに、早くも第二次危機! ――いや、幸い向こう側が暗いので奥まではギリギリ見えてないんだけど……そういう問題じゃないんだ。特に今はタイツいてないしさ? まぁ、そもそも幼女相手に何を動揺どうようしてんだって話ではあるんだが、中身はバッチリ歳上のお姉さんだしなぁ――ってそうだよ! 心はレディなのに、なんでこんな無防備むぼうびなんだよ!? この二十歳児にじゅっさいじめ!


「どしたのー?」

「いっ、いいから早く降りてこい!」

「うん」

「――あっいや待て、危ないからゆっくりでいいぞ!」


 心配してそう付け加えた瞬間、背後でトッと着地ちゃくちおん。振り返れば目の前で立ち上がる夕。


「ちょ、え、あの高さから飛び降りたん? 足とか大丈夫か?」

「ええ。一回枝にぶら下がってから降りてるし、地面が土で身体も軽いから全然へっちゃらよ?」

「……なるほど」


 ぶら下がると夕の身長+肘先ひじさきだけ低くなるから、足元の高さは百五十cmほどになり、身体もすごく軽いとなれば問題ない訳か。それにしても、なかなかの腕白わんぱく娘なことで……この身体能力にお得意の機転が加われば、魔物におそわれても意外と逃げられるかもしれんな。

 そう納得して目を合わせたところで、


「パパ!」


 夕がこちらに飛び込んで抱きついてきた。


「もし大怪我けがでもしてたらどうしようって、もう気が気じゃなくて……探しに行きたくても迷惑になっちゃうし……ああ、本当によかったよぉ……」

「心配かけてすまんな」


 今にも泣きそうになっている夕の頭を、優しくでてあげる。


「それであの骸骨だけど、一回バラバラにしてやったから、しばらくは追ってこれないと思う」

「そっかぁ。やっぱりパパは凄い!」「すごいのー!」


 それを聞いて安心したのか、夕は抱きついていた腕を離すと、ルナと共に顔を輝かせる。


「ははは、倒せてねぇけどな? あと、目印はほんとに助かった、ありがとな。あれがなかったら、今もまだ森の中を彷徨さまよってたところだ」

「あ、ちゃんと役に立ったのね。ふふ、羞恥しゅうちしんをポイして頑張った甲斐かいがあったわ!」


 もう少し捨てずに置いておいて欲しかったところだが、贅沢ぜいたくというものか。


「じゃ、あたしちょっと回収してくるわね。一人じゃ危ないから、少し後ろから付いて来てくれると嬉しいな?」

「――え、全部持ってきたぞ?」


 森に戻ろうとする夕を引き留めると、肩に掛けていた木の棒+αに帽子ぼうしを乗せて、戦利品のように差し出す。


「な、ななな、うなあぁ!?」


 すると夕はおどろきの声と共に顔を赤く染め、俺の手から一瞬で戦利品をもぎ取ると、身体の後ろに隠してしまった。


「な、なんで持ってきちゃったのよ!?」

「いや、えと、二度手間になるし回収して欲しいかと思って?」

「帽子以外は置いといてくれたら良かったのよ! こっちははじと一緒に泣く泣く置いてきてるんだから、察して欲しいかな!? しかもこんな旗みたいにして持ってきちゃってさぁ……恥ずかしすぎるんですけどぉ!?」

「す、すまん……本当にすまん!」


 夕の羞恥心が大爆発して烈火れっかごとく怒られる俺。もはや俺程度にはひらあやまり以外のすべはない。――ぐぬぅ……数字の意味は理解できたが、さらにそこから「帽子だけを持って帰る」には行き着けなかった。まだまだ夕への理解が足りないということか……。


「もぉ~~~パパのばかぁ! にぶちんっ! えっちぃ!」

「えっちなのー!」

「ええぇ……」


 自分で置いといて理不尽りふじんな……とは若干思いつつも、結局のところ女心が分かっていなかった俺が悪いので、言い訳しても倍になって返ってくるだけだろう。是非ぜひもないね。

 ああ、凶悪きょうあくな骸骨妖怪には勝てても、こんな小さな女の子には到底とうてい勝てやしないとは、世の中不思議なものだな。



~ 第二章 金星と月と森林探索 完 ~  



【35/35(本章での増加量+25)】




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第2章までお読みいただきまして、誠にありがとうございます。


大地のバトルシーンなかなか良かったぞ、照れて怒った夕ちゃんも可愛いなぁ~、などと思っていただけましたら、ぜひとも【★評価とフォロー】をお願いいたします。


第3章では、逃げ帰ってきた彼らが対抗手段としてアレを習得することになります。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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