冒険録08 野生の骸骨が襲いかかってきた!

 声をかけた旅人は、まさかの骸骨がいこつ人間だった。そのあまりに想定外な事態に、俺はパニックにおちいりそうになるが、歯を食いしばって気合で落ち着かせる。

 ――冷静になれ、大地! ここで取り乱したら、三人ともやられてしまうぞ! 一番戦える俺が、夕達を守らねば!

 骸骨の空虚くうきょ眼窩がんかより放たれる真っ赤な眼光からは、俺達に対する敵意が感じられるものの、幸いにも即座そくざおそいかかっては来ないようだ。そのすきに少しでも距離を取るべく、俺と夕は野生動物に遭遇そうぐう時の対処法のように、刺激しげきしないよう静かにジリジリと後ずさる。夕もさけび出したいほどこわいはずなのに、涙を浮かべながらも必死にこらえてくれていて……本当に強い子――強いお姉さんだ。


「(夕、襲いかかって来たら、手筈てはず通りお前達は逃げろ。どの程度危険な相手なのか全く分からないし、ひとまず俺は全力で逃げ回っていてから合流する)」

「(ごめんね、あたしが弱いばっかりに……)」

「(気にすんなって。きたえてるから、逃げにてっすればそう簡単にやられはしないはずだ。他にも魔物が居るかもしれんし、一番安全性の高い今来た道を戻って、切り株の近くで待っててくれ。合流も比較的し易いし)」

「(うん)」「(はいなの)」


 ルナも幼いながらに状況を察したのか、ささやき声で返事を返してくる。いい子だ。

 襲われる前に少しでも情報を得ようと、あと退ずさりながら相手を観察する。身長二m近い骸骨はほとんど破れ落ちたボロボロの衣服を着ており、その隙間からは人骨が見えている。もしかすると、元は人間だったのかもしれない。また、その右手にはうで状の骨を持っているが、左手が無いことから判断して、自身の左手を外して武器にしているのだろうか。なんてエコな――なんて考えている場合じゃないな。

 少しずつ彼我ひがの距離が開き、このまま逃げ切れるよう祈っていたところで……骸骨の内部から真っ黒なもや状のものが染み出し、その全身を包み込んでいく。

 そして骸骨が完全にもやおおわれたとき――


 ギギ カシャ カシャ カッ カッ カカカカカカ!


 ついにきしみ音と共に動き始め、右手の骨を振り上げてこちらへとけ出してきた!


「――走れ!」

「っ!」


 俺は骸骨に向かって左手へ、夕達は来た道へと走り出す。


「こっちだぁぁぁ!!!」


 骸骨が夕の方を追わないように、大声でこちらに引き寄せる。先ほどは声で振り向いたことから、恐らく聴覚ちょうかくはあるはずだ。――耳も無いのになんでだって話だけどな!

 すると想定通り俺の声に反応したようで、骸骨は向きを変えてこちらへと向かって来る。俺はそれを確認すると同時に、一目散にけ出した。

 俺はただぐ走るのではなく、できるだけ相手との射線しゃせんを切るように、障害物の木々を上手く使って逃げ回る。加えて骸骨の足は俺より若干遅いようで、けはしないものの、追いつかれもしなかった。

 ただ……カシャカシャと音を立てて背後から迫ってくるのが、めっちゃ恐怖をあおってきやがる! くっそぉ、野生動物は覚悟していたが、まさか骸骨の魔物が来るとは……まぁ足が遅めな分、熊よりはマシかもだが……何にせよ、棒きれ一本で立ち向かえる相手じゃないっての。こんなヤツが森を徘徊はいかいしてるとか、異世界ヤバすぎんだろ! 責任者の魔王様出てこいや!

 そうして冒険開始早々におとれた理不尽りふじんに毒づきつつ、必死で逃げ回っていたが……


「っ!?」


 地面から浮いた樹木の根につまずいてしまった。足元が暗いとはいえ、なんという失態しったい

 咄嗟とっさに空いた左手をじくに回転して受け身を取るが、疾走しっそうの勢いを殺しきれずになかば転倒してしまう。

 慌てて体勢を整えようとするが……すでに目の前には、真っ赤な眼光に殺意をめて骨を振り降ろす骸骨の姿があった。




【16/16 (+0)】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る