冒険録03 ヒロインは凄く賢いぞ!

 聞き取りによる少ない収穫しゅうかくとして、ルナという名前と、つたないながらに意思いし疎通そつうができることが分かった。また、本人によれば見た目通り妖精とのことだが……そのようなファンタジーな話はにわかには信じがたく、最新の科学技術を駆使くしして作られた人工物ではないかと疑ってしまう。ただ、しがない高校生の俺には判断がつかないところなので、ここはひとつに意見を聞いてみることにしよう。


「なぁ夕。この子は、本当に妖精なのか? 例えば、精巧せいこうなロボットって可能性は?」

「うーん……人語じんごかいして豊かな感情もあり、精巧せいこう人体じんたい構造こうぞうに高度な姿勢しせい制御せいぎょ、おまけに自由に空まで飛べる……少なくとも現代では、このレベルのアンドロイドを造るのは絶対不可能ね。完全にオーバーテクノロジーのかたまり。つまり、信じがたいことなんだけど……本当に妖精なのかなぁ?」


 フェアリーアタックによりっすらと赤くなっているあごをさすりながら、妖精さんに対する的確な見解けんかいべてくれた。さす夕。

 ところで、この夕の幼女らしからぬハイスペックさには理由があり……実は中身は二十歳はたちのお姉さんで、しょ事情じじょうでこの姿になっているだけなのだ。しかも、全国一の理系りけい才女さいじょうたわれていたほどの頭脳の持ち主で、宇宙物理学を専門とし、さらに機械工学と医学も少々かじっているとのこと。

 そういう訳で、普段は見た目通りの天真爛漫てんしんらんまん二十歳児にじゅっさいじではあるが、こうした真面目な話の時には大人モードになって俺を導いてくれるという、本当に頼もしい存在なのだ。俺もいずれは夕にほこれるような人間になれればと、気持ちは真っ直ぐ前を向いている――実力に関してはうご期待で!


「すると……妖精なんて幻想上の生き物が、なんでこんなところに?」

「うーん…………――あっ!」


 夕は頭をひねりながらルナをじっと観察していたのだが、少しして突然声を上げた。


「もしかすると……ここはあたしたちの世界とは別の世界――異世界かもしれないわ!」

「え!? 漫画とかに出てくるあれだよな……ってのは、何か気付いた?」


 夕は学者さんらしく、根拠こんきょの無い発言はしない子なので、必ずそう考えた理由があるはずだ。


「えっとね、ルナちゃんはこうして空に浮いてる訳だけど、それを成し得る動力源があたし達の世界には存在しないのよ」

「んー…………鳥みたいなもんじゃ、ないのか?」

「んにゃ、よく見て。ルナちゃんは飛んでるんじゃなくて、浮いてるの」

「おおお……ほんとだ」


 ルナは羽を動かしてもいないのに、宙にピタリと静止していた。


「重力という力に対して、羽が空気を押す反力でそれを相殺そうさいすることで飛べる訳だから、風も無く羽ばたかずに静止することは物理的に不可能よ」

「たしかに」


 空中に静止できるヘリコプターやドローンなども、結局は同じ原理になる。


「それでね、重力の他には、電磁気でんじき力・弱い力・強い力の合わせて四つ、あと前に少し話したダークエナジーによる斥力せきりょく――第五の力フィフスフォースがあるけど……どれもこの現象を成立させられないわ。そうなると、あたし達の世界には存在しない物理法則――言わば第六の力シックスフォースが働いていることになるの。それはつまり……」

「――魔法?」

「そうなっちゃうわねぇ………………あ~もぉ~、くやしいったらないわっ!」

「はは……」


 夕は両足でジタバタと地団駄じだんだんでいる。魔法なんて何でもアリで片付けるしかないことに、科学者として敗北感を覚えているのだろう。でも努力家な夕のことだし、いずれそれも科学的に解明してしまうかもしれないな。


「――こほん。そういう訳で、ここは魔法が存在する異世界だと思う。なんで異世界に飛ばされたのかは分かんないけど……」

「なんてこった……」


 目が覚めたら異世界に居たなんて、どこの漫画だよって話だ。


「なぁルナ、お前は本当に魔法で飛んでるのか?」


 その信じがたい現実を否定したくて、一応本人に確認してみる。


「んー? えいっ! てするのー! はねははやいのー!」

「だぁぁ、分っかんねぇ……」


 幼女妖精と意思疎通そつうを図るのが難しすぎる件。


「あはは……飛びたいと思うだけで飛べるけど、羽も使うともっと速く飛べるって、言いたいんじゃないかしら? たぶんだけどね?」

「そうなのー!」

「すげぇな夕、よく分かったな」

「んー、何となく気持ちが分かる?」

「ふーん。俺にはさっぱりだがな……」


 幼女をもって幼女を制する、と言ったところか。……まぁ中身はお姉さんだけど。


「ふふっ、子供が出来たら苦労しそうねぇ」

「……え?」

「なっ、なんでもないよぉっ!?」


 夕は顔を赤くしながらワタワタと手をり回し、それをルナが面白がって真似まねをして夕にしかられている。


「――くっくっく」

「「!?」」


 そこで突如とつじょ背後から、どこか聞き覚えのある笑い声が聞こえ、あわてて振り向く。


「相変わらずお熱いことだね?」


 するとそこには、クラスメイトの女子高生――一色いっしき夏恋なこが立っていた。

 この見知らぬ異世界で知己ちきに出会えたことで、喜びがき上がってきたのだが、


「……え?」


 その頭には二本の山羊やぎつの、背には漆黒しっこくつばさ禍々まがまがしい尻尾しっぽが生えていることに気付く。

 そう、それは一般的に悪魔と呼ばれる姿なのであった。




【8/8(+2)】

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