冒険録02 妖精さんが名乗ってきた!

 誠に残念ながらも夢ではないようなので、ひとまずはこの妖精の姿をした幼女について調べてみることとなった。そのくだんの妖精さんはと言うと、夕への連続攻撃で気も晴れたのか、俺たちの周りをお気楽にヒュンヒュン飛び回って遊んでいる。

 まずはと手招てまねきをし、てのひらを上に向けて差し出してみた。すると妖精さんは、すぐに「わーい」と万歳ばんざいをしながら近寄って来て、掌の上にちょこんと座りむと、大小八対はっついある透き通ったオーロラ色の羽をたたんだ。その体長十㎝ほどの身体からは、重さはほとんど感じられないものの、小動物をつかんだ時のような温かさがじんわりと伝わってくる。


「うふふっ、可愛いらしいお洋服。ほんとお人形さんみたいねぇ……大人しくしてたらだけど」

「くくっ。だなぁ」


 かみには花飾はなかざりを沢山たくさん付け、フリルだらけの純白のワンピースに身を包んでおり、いかにも妖精でありますといった装いだ。


「ねぇねぇ、この髪……」

「ん?」


 言われてその美しい髪をじっくりとながめてみれば……両サイドでお団子にした部分は光沢こうたく透明とうめい感のあるさわやかな空色をしているが、足元まで届く毛先へ向かうにつれて、星屑ほしくずきらめきをたずさえた深い夜空の色へと変化している。


「動いてる……よね?」

「う、うむ」


 それは絶えず流動して形状を変えており、まるで液体のような髪なのだが、れている俺のてのひらには何故なぜ湿しめり気を全く伝えてこない。何やら未知の不思議な物質で出来ている髪のようだ。

 そこで俺が、夕を悶絶もんぜつさせた凶器きょうきヘッドを、何とはなしに指先で優しくナデナデしてみると……


「ふひゃんっ」


 くすぐったそうにするが、嫌がってはいない――どころかとても嬉しそうにほおをスリスリと寄せてきた。その代わり夕からは、ねたジト目を向けられており……あのー、決してヤマシイことなどはしておりませんよ? これはあくまで、妖精(?)の学術的生態調査の一環いっかんですゆえ。

 誤解でありますとばかりに、夕へ向かって首をプルプルっていると、


「わーーおーーたーーのしーーのーー!」


 妖精さんはじっと座っていることにきたのか、掌の上をゴロゴロと転がり始めた。……本当に落ち着きのない子だなぁ。

 一通り観察が終わったので、直接本人に色々と話を聞いてみよう。


「お前は何者なんだ?」

「よーせいなのー!」


 ピタと回転を急停止し、こちらに宝玉のごとく美しい黄金色ゴールド蒼玉色サファイアブルーのオッドアイを向けると、元気に両手を振り上げてそう答える。


「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……」

「?」


 妖精さんは小首をかしげており、こちらの質問の意図をみ取れていないようだ。幼女な見た目通りあまりかしこくはなさそうで、人間で言うところの園児程度だろうか。


「ええと、お名前はなんていうのかな?」


 幼女の取りあつかいに困っていたところ、横から幼女にフォローされた。それだけ聞くとみょうな話だ。


「よづ――じゃなくってぇ、なんだっけぇ……んっとぉ……るな! るなはるななの!」


 自分の名前をすぐ思い出せないって、どういうことだよ……それに何か言いかけたような? 隣を見れば、案の定と夕も困り顔をしている。


「そ、そう……じゃぁ、ルナちゃんでいいかな?」

「うんっ!」


 ツッコミどころが多過ぎてどうしたら良いか分からないようで、夕はひとまず流すことにしたらしい。


「あたしは天野あまの夕星ゆうづだよ。よろしくね」

「俺は宇宙こすも大地だいちな。よろしく」

「よろしくなのー! ……でもそんなのしってるのー!」

「え、そうなのか? どうして?」

「?」


 また首をかしげられてしまった。どうやらルナにとっては、知っていることが当たり前過ぎて、知るに至った経緯けいいを説明できないようだ。何とも不思議な子――まぁ妖精(?)の時点で不思議どころの話ではないが。




【6/6(+2)】

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