冒険録04 クラスメイトを褒めるのは難しいぞ! (挿絵有)

「くっくっく、何をおどろいているのだい?」

「いやぁ……」


 そうして不敵に笑う少女は、あかひとみ煌々こうこうと輝かせており、短いはくはつからは二本の山羊やぎの角が生え、背中からは漆黒しっこくの翼と禍々まがまがしい尻尾しっぽが伸びていた。あまりに非現実的な悪魔の姿ではあるものの、その独特な笑い方や落ち着いたボーイッシュな口調は、やはりクラスメイトの一色いっしき夏恋なこそのものだ。

 それでこの夏恋なーこについてだが……当初は俺が色々とやらかしたせいでひどく敵対されており、なーこのえ渡る推理力で俺の秘密がバシッと丸はだかにされてらしめられた末、なんやかんやで和解してお友達となった経緯けいいがある。今でも事あるごとに言葉たくみに俺をからかってくる、イタズラ好きで策略さくりゃくな実に困った子なのだが……俺が本当になやんでいる時には親身に相談に乗ってくれる、すごく頼りになる心優しい友人でもある。……でも怒らせるとほっんとーーにおそろしい子なので、取り扱い厳重注意のフラジャイルガールだ!


「お前……なーこ、だよな?」

「んー? キミは何を言っているのかな? わたしはカレンという名だが?」


 つまり夏恋なこではなく夏恋かれんとな。どういうこっちゃ。


「……お前こそ何言ってんの?」

「はは、まったくキミはつれないねぇ。この現状を楽しみたまえよ、くくく」

「はぁ……さいですか」


 事情は良く分からないが、深くツッコむなということらしい。俺とはミジンコとアインシュタインくらいりょく差があるので、どうせ言い合っても絶対に勝てないし、ひとまずお望み通りカレンとしておこう。


「それよりも……わたしに何か一言ないのかい?」

「……え?」


 一言と申されましても?


「はあぁ~、まったくキミときたら相変わらずだ…………ゆーちゃん、この甲斐性かいしょう無しに言ってあげたまえ」

「かいしょーなしー!」

「パパ、なーこさん――じゃなくてカレンさんは、感想を待ってるんだよ?」

「あ、ああ……」


 ようやく気付けた俺に、女の子三人はヤレヤレと首をる。――待て、ルナにまであきれられるのはおかしくない? この子絶対意味分かってないよね?

 それで目の前の悪魔の格好かっこうながめてみれば……カレンと和解する前の、超絶ちょうぜつ敵視されていた頃の恐ろしい姿が脳裏のうりをよぎる。――うぉぅ、思い出しただけで背筋に寒気が走ったぞ!?


「えーと……すごく恐ろ――いや、カッコイイぞ!」

何故なぜそうなるのだい!?」


 途中とちゅうにらまれて言い直したのに、それでも違ったらしい。おかしいな……前に夕のいきな生き様をカッコイイとめたら、喜んでくれたはずなんだが。


「パパ? カレンさんは可愛い系の女の子なんだから、少なくとも格好への褒め言葉としてそれは微妙だと思うよ?」

「そ、そういうもんなのか……」


 俺には難し過ぎるミッションだ……夕先生の助言が無かったらそくんでるのでは? ――ま、まぁ、何はともあれ名誉めいよ挽回ばんかいに努めよう。

 そうして再度その姿を眺めてみると……本当は友達思いのとても優しい子だと知っている今では、良い子ちゃんが頑張って悪ぶろうと、超ハイレベルな悪魔っ娘コスプレをしているようにも見えてきた。これも一種のギャップえと言えるかも知れない。


「えーと……その仰々ぎょうぎょうしい悪魔の姿は、敵には容赦ようしゃないカレンの苛烈かれつな側面そのものだけど、それも臆病おくびょうで心優しいお前が友達を守ろうとしているからと俺は知ってるから……そのかくれた健気けなげさを思い起こさせる魅力みりょく的な格好だと感じる。そういう内面もふくめた意味で、カレンに良く似合にあってると思うぞ!」

「んなぁっ!? あ、ありがとぉ……」


 カレンは消え入りそうな声でそう言うと、くるりと背を向けて、尻尾をバルンバルンと振り回している。

 これは……やったかっ!?


「やりすぎよっ! パパのばかぁっ!」

「やりすぎなのー!」

「ええぇ…………――あだだっ!」


 夕に背中をつねられてしまった。言われた通りに全力でめたのに、理不尽りふじんすぎないか!?

 そうしてねた夕にしかられている間に、カレンはこちらへ向き直っており、


「――ふう。まったく、一言お世辞せじを期待しただけだというのに……そのような台詞せりふはゆーちゃんにだけ言ってあげたまえよ? くくく」


 普段ふだん通りの不敵な笑みを向けてきた。


「え、夕に……?」


 今カレンにしたように、全力で夕の素晴らしいところを褒める……か。夕の人となりは、元気・誠実せいじつ聡明そうめい慈愛じあい・勇気・不屈ふくつ、あとは料理上手の話し上手で容姿端麗たんれい? 改めて挙げてみると、マジで非の打ち所のないハイスペック幼女だな! まぁ、絵心や歌などの芸術的センスは壊滅かいめつ的なんだけどさ、ハハハ。

 それでとなりの夕を見れば、期待の目をこちらに向けてソワソワしている。


「えっと…………くっ……」


 こんな小っずかしいこと、夕に面と向かってなんて言えるかい!


「ええぇ……しょんなぁ」


 褒めるところが全くないから詰まったと思われたのか、夕が悲しそうに目を伏せる。……ぐぅ、そうじゃない、そうじゃないんだ! 逆に多すぎるんだ!


「ん~? ゆーちゃん、何を残念がっているのだい? キミには言えない意味を考えてみたまえよ」

「……あっ! なぁ~んだ、パパってばぁ。にしし♪」

「くくっ、今後のお楽しみということさ」

「おたのしみなのー!」

「「「ねー♪」」」


 何やら女性陣じょせいじんだけで解決して盛り上がっており、俺は完全に蚊帳かやの外に置かれてしまった。……まあ、夕がとても楽しそうだし、これはこれで良しとしようか。……別にさびしくなんてないからな!



【9/9(+1)】



-----------------------------------------------------------------------------

ハピスパ本編の立ち絵ではありますが、よろしければご覧ください。

カレン(一色夏恋) https://kakuyomu.jp/users/mochimochinomochiR/news/16816700426670543012

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る