第8話 いざ、病院へ
『君の肉親が生死を彷徨うような、とんでもない事態になっているかも知れないんだから、そんな時に私について君が、どう思おうと自由よ! 私の事は、本当にどうだっていいの! 大事なのは君自身だから!』
生死を彷徨うような事態……?
さっき、この声は、覚悟とも言っていた。
覚悟って、一体何の……?
まさか、お母さんに対して、最悪の事態を覚悟しなくてはならないのだろうか?
お母さんが死んでしまう?
この世から、いなくなってしまう?
あの口うるさいお説教も、けたたましい笑い声も、いつもは耳障りでウザイくらいにしか思ってなかったけど……
お母さんは、いつも、僕の事を気にかけて、第一に考えてくれていた。
不登校を選択した時だって、最初は泣き崩れていたけど、その後は、一緒にお父さんを説得してくれた。
通信教育で勉強する事にしたけど、よくサボって、ずっとゲームとかしているのを見付かった時には、哀しそうな顔をしていた。
そんな時、監視されているようで、お母さんを邪魔者扱いしていたけど、今は、お母さんの気持ちが分かるよ。
だから、これからは、しっかりと勉強を優先させるから!
自分で誇れるような自分になれるように、ずっと頑張るよ!
お母さんには、ずっと生きていて、そんな僕を支えて欲しいんだ!
『そうね、お母さんを失わずにいられた場合は、有言実行でいかないとね! もう、二度とお母さんを哀しませないように……』
だけど、未接種者の僕が病院へ向かうのは、かなり見当違いな事かも知れない。
テレビやネットの情報によると、未接種者は門前払いされるのが、当然のETウイルス禍だ。
面会を許されなかったら、僕はどうすればいいのだろう?
この場で、無理矢理、『フロムET』ワクチンを打たれる可能性も有る。
喘息が悪化しそうだから、拒絶したいが、お母さんと会う為なら、そこは妥協しなくてはならない?
それとも、正面から行くのは避けて、忍者のように壁伝いに、お母さんの居場所を突き止めてから、中に侵入する?
見付かったら、お母さんに会えないまま不法侵入者扱いになって、警察に連行されるてしまうだろうか?
『心配しなくて大丈夫よ! フロムETウイルス自体、もうそこまで警戒する必要は無いって、分かっている病院は現れ出している状態だから』
受付で差し出された記入用紙には、住所と名前と電話番号と来院の目的と、ワクチン接種の有無の欄が有り、ビクッとした!
そこで『有』を選んだとしたら、接種証明書の提示を求められて、すぐにバレてしまうから、正直に『無』をチェックした。
用紙を提出すると、受付の女性は、猜疑心に満ちた眼差しを僕に向けて来た。
ヤバイ!
ここで、追い返されてしまうかも知れない!
「こちらの用紙の記入欄は、これで間違えが有りませんか?」
ワクチン接種有無の所に、受付嬢の視線は向いていた。
「あっ、はい……」
今更、間違えだったなんて、どう考えてもおかしいから、もう、それで通すしかない。
「少々お待ち下さい」
「あの~、早く、母の元へ行きたいんですが!」
こんな事をしている間に、母の命が尽きたりしないか、心配で居ても立っても居られなかった。
「規定ですので、少々お待ち頂く事になります!」
キツイ口調になった受付嬢は、もう1人の受付女性にその場を任せ、席を立ち、上司に、僕の事を伝えに行った様子。
上司の言葉次第で、僕は、このままとんぼ返りさせられる可能性も有る。
それどころか、保健所や警察に引き渡される可能性も有る。
どうしよう……?
この場から、逃げた方がいいのでは……?
『ここで待っていて、平気よ。病院側は、あなたを悪いようにはしないわ!』
5分くらい待っていると、受付の主任的な立場のような、お母さんより年上の女性が奥から現れた。
「お待たせしました。あなたが、さきほど救急車で運ばれて来た、戸波和子さんの息子さんですか?」
「そうです!」
「確認しますが、あなたは、本当に、ワクチン未接種者なんですか?」
ああ、やっぱり、それがネックになってしまうんだ!
こんな事なら、あの流れに逆らわずワクチンを接種していたら良かったのかも知れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます