第7話 一歩踏み出す勇気
外へ出るなら、二重マスクだ!
紙マスクなら、居間に家族が利用しているのを置いてある場所が分かっているけど、僕の布マスクって、どこに置いてある……?
いや、そんなの探している暇なんてない!
この際だから、不織布マスクを二重にしよう!
紙を二重にすると息苦しくなるけど、それでも確かOKのはずだから!
『大丈夫よ、猛暑期の今時分は、熱中症対策の方を優先して、そんなに外でのマスクは気にしなくても良い流れになっているから。それよりも、急ぎましょう!』
マスク、外では至近距離での会話以外は必要無くなっているようだけど……
まだ、ファッション感覚で好んでしていたり、予防効果が有ると信じている人も多いっていうのをネットで目にしていた……
この周囲で、実際はどうなのか?
取り敢えず、苦しいから僕は、病院に入るまでは、不織布の二重マスクは外しておこう。
僕以外は外出中の玄関には、靴が無い状態だった。
僕の靴って、どこだろう……?
僕自身も、外に出る日がまだ訪れるとは思わなかったけど、それは、家族も同じで、まだ外に出る事は無いと決め付けていたらしい。
靴箱のかなり奥の方に、数年前まで自分が履き慣らしていた、少し踵が潰れた通学用の白い運動靴が置かれていた。
この運動靴、最後に履いたのは、いつだったのだろう?
余裕を持って大き目の靴を買っていたはずだけど……
少しきつく感じられた。
そんな違和感よりも、この靴を履いた状態で、ドアを開ける動作の方を僕は躊躇した。
『そうだよね……もう随分、外に出てなかったのだから、無理も無いよね。いきなり出なくてはならない状況にされても、まずは、最初の一歩が辛いよね?』
あれから、3年も経過していたんだ……
外の世界は、僕が知っていた時のまま……だろうか?
でも、少なくとも5丁目の交差点はまだ存在しているし、僕はそれがどこに有るのか、よく分かっている!
今は、それだけ分かれば、十分なんだ!!
『早く、お母さんの元に駆け付けなきゃね! どんな事になっていても、自分を見失わないように! 非情な言い方かも知れないけど、あなたは、元々、そうなる運命を選択して来たのよ!』
こんなにキレイな声で、こんなにキツイ事を言って来るなんて……
耳あたりはこんなにいいのに、言っている事は、厳し過ぎるよ!
時々、聞き間違えでは……?
と思うような事を、平気で言って来るから。
『今は、君の知っていた時とは違うの。悪い方ばかりではないわ! どっちつかずの曖昧さが減った結果、良いか悪いかの2極化という感じて分かれてしまったの。もしも、今の君にとって喜べない事が振りかかったとしても、君には良い方に属していてもらいたい!』
喜べない事が振りかかっても……って?
お母さんが大変な事になっているのに、そんな絶望的な時にも、良い人の素振りなんか、僕にはムリだ!
どんな時でも良い人でいられるなんて、ただの偽善者でしかない!
『人が試されるのは、普段ではなく、逆境時なの! だからこそ、君には、そういう境遇を乗り越えて強く生きてもらいたい!』
何を言っているのだろう?
そういえば……
今、気付いたけど……
何だか、この声が聴こえるようになってから、僕に試練が振りかかるようになったみたいにも感じられる!
今でも、こんなにキレイな声で僕の心を捕らえているのに、内容は、もう僕が言って欲しいような内容とはかけ離れていってる!
この声の主は、もしかしたら、ホントは疫病神とかなんじゃないのか?
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