第6話 不意に鳴った家の電話

 僕一人だけが、周りから断絶されたような変化の無い生活は、まるで永遠に続くかと思っていたけど……

 ある日突然、そうもしていられないと促されるような出来事が起こってしまった!


 近所のコンビニでパートタイマーをしていたお母さんは、いつもなら夕方16時半には戻って、僕らの夕食準備に取り掛かるはずだった。


 ところがその日は、とっくに帰宅時間になっても、お母さんが帰宅したような気配ひとつしなかった。

 お母さんに、何か急用とかが入って遅くなる時には、大抵、僕の携帯に連絡が入っていた。

 そんな時には、仕方がないから、僕が夕食のお米を研いで、炊飯スイッチを押していたりもしていた。


 今日は、一体どうしたのだろう……?

 

 もしかして、僕が知らなかっただけで、お母さんが予定が入っていた事を前もって真由実は知っていたのかも知れないけど……

 真由実は、今日は部活が有る日で、18時過ぎくらいにしか戻らない。


 30分経過しても、お母さんが戻らず、連絡もなかったから、だんだん嫌な予感が募って来た。

 今まで僕が、良い事を期待しても、当たった試しが無かったけど、嫌な予感に限っては、なぜかことごとく当たってしまう……

 

 僕単体の事に関してだったら、何か悪い事が起こったとしても、まだ我慢出来たけど……

 僕以外の家族に関してだけは、絶対に、そういう悪い予感は当たって欲しくなかったのに……


 そんな僕のささやかな願いも無視されて、その事は起こってしまった!


 それを知らせたのは、僕の携帯ではなく、家の電話だった。


 それに出たら、かなりの確率で、快い内容を聴く事は出来ない予想が既にしていた。

 出来る事なら、居留守したかった。


 それでも、居留守して現況から逃げたい気持ちより、お母さんが戻らない事に対するモヤモヤ状態が続くのは終わらせたい気持ちの方が、何倍も強かった。

 だから、僕には、お母さんがなぜ戻らないのか判明させようとしているような、その電話に出るという選択肢以外は無かった。


『あっ、もしもし、えーと、戸波さんのお宅ですか?』


 全く聞き覚えの無い、男の人の声だった。

 その声からは、何か妙に急いている様子が感じられた。


 ああ、嫌だ!

 僕の悪い予感が、だんだん現実味を帯びて来る気がしてならない!


『はい……』


 僕は、言葉少なに答えた。

 早く要件を聞きたかった。


『あー、えーと、戸波和子さんの息子さんかな?』


 やっぱりだ……

 お母さんの名前が耳に届いた瞬間、嫌な予感は的中したと確信した!


『はい、そうですが……』


 息子だろうと何だろうと、この電話に出たのは僕なんだから、要件を早く伝えて欲しかった。


『えー、君のお母さんだと思う人が、5丁目の交差点で、ひき逃げされたようで、道路に倒れているんだけど……』


 ひき逃げ……?

 倒れている……?

 お母さんが!!


『母は、大丈夫なんですか?』


『動かないけど、今は、まだ脈は有るから……、えーと、救急車を呼んで待っているところだけど、君は、ここに来られるかね?』


 5丁目の交差点だったら、すぐそこだ!

 歩いて5分もかからない所だ。

 そんな近くで、どうして……?


『はい、今、すぐ行きます!』


 そんなに厚みは無いけど、半年分くらいのお小遣いの入った自分の財布と携帯を持参して、交差点へ直行した。

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