第9話 まさか、僕が……
僕が、未接種でいたせいで、危篤状態の母との面会も許されないというのなら、僕の選択は、やっぱり間違えていたのでは……?
『いいえ、君は正しいから! 毅然としていて大丈夫よ!』
どんな力強く慰められようと、今は、耳を素通りしてしまう。
だって、こんな大事な局面で、お母さんの容態すら分からないまま、ここで待機させられなきゃならないんだよ!
「戸波さん、処置室に来て下さい」
処置室……?
僕に、何を処置されるのだろう……?
まさか……
看護師に呼ばれて、処置室に入ると、そこには注射器を持った別の看護師が待っていた。
えっ、ここで、ワクチンを打たれる?
……それにしては、注射器が大きいような?
「採血させて頂きますので、こちらにおかけ下さい」
採血……?
何の為に……?
「あの、僕はO型ですが、輸血済みなので……」
「輸血済みだとしても、今は問題視してませんから、左腕をここに乗せて下さい」
言われるまま椅子に座り、用意された台に左腕を乗せた。
太めの注射器3本分も採血された後、僕はまた待合室に戻された。
僕の血液をどうするつもりなのだろう?
血液検査で、お母さんに会えるかどうかが決められてしまうのだろうか?
その時、聞き覚えの有る女性の声が聴こえて来た。
「私が欲しいのは、証明書だけなの! お父さんなら、すぐに用意出来るでしょう?病院の事情は分かるけど、どうして、私まで血液検査する必要が有るの?」
父親らしき年代の男性と病棟中に響きそうな声で興奮して話しているのは……
3年前に教室で見かけた時以来だった……
少し大人っぽくなって髪の毛を垂らしているけど、色白の肌と円らな瞳は何も変わってない、ずっと大好きだった和木さん!
まさか、こんな所で再会出来るなんて、なんていう運命の巡り合わせだろう!
そういえば、和木さんの父親は、ここの医者だって聞いていた。
和木
「あっ、戸波君! 久しぶりだね! ここで、何しているの?」
そんな和木さんだから、僕を見かけると、物怖じする事無く懐かしそうに話しかけて来てくれた!
「お母さんが事故に遭って運ばれて……それで、僕の血液をさっき採血されて、ここで待たされている」
「血液検査って……戸波君も、未接種だったの?」
もって事は、和木さんも未接種だったんだ。
それで、さっき、血液検査の事を話していたのか……
「副反応とかで喘息が余計酷くなりそうだったから未接種のままだった。でも、僕が未接種なせいで、お母さんには、会えない事になってしまうのかな……?」
和木さんのお父さんが、ここの医者なら、何とか融通を効かせてもらって、お母さんに会えるように手はずを整えてもらえるのでは……と期待して、話してみた。
「未接種だからって、面会出来ないなんて事は無いわ! ただ、今は……未接種者の血が貴重で、病院側で必要とされているから、検査して使える状態か確認しているのだと思う」
周囲に聴こえないよう、さっきまでとは別人のように声を潜めた和木さん。
そんな情報は、ネットを色々散策している自分には得られてなかった。
お父さんが現場で働いているから、知らされた内情なのだろう。
「そうか、君も未接種者なのか? お母さんとは、ちゃんと面談出来るようになるから、その前に、是非、穂香と一緒に血液の提供に協力して欲しい」
「私は、受験に証明書が必要なだけ! 貧血気味だし、それでなくても、今は余計、そうなりやすい期間だから、無理だって言っているのに……!」
僕が前にいるせいか、気まずい様子で赤面しながら言い訳した和木さん。
そうか……女子だから、仕方ないよな。
「あの~、僕なんかの血で良かったら、こんな機会しか利用してもらえる事が無さそうだし、もう一度、和木さんの分まで採血してもらって大丈夫です!」
大好きな和木さんの為でも有るし、僕自身も誰かの役に立てるというなら、喜んで差し出したかった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます