第15話 未来を夢見る腐女子たち


安藤先輩は振られたショックからか雰囲気ふんいき随分すいぶん変わっていた。


ミルキーには本橋先輩と何の接点せってんもないのに、

何かにつけてミルキーのことをうたがい、

しつこいくらいにからんできたので、

マネージャーを通して、スケジュールを見せたり、

腐の者たちで遊んでいた時の動画なんかを見せて、

ようやくうたがいを晴らした感じだった。


「気持ちは解るけど、

別れ際、

こういう女になるのだけはイヤだよね。

本橋先輩が別れたがったのって、

安藤先輩のこういう面倒くさい一面を

付き合ってく中で知ったからかな?

それなら、

うちが男でもナシと思うだろうなぁ。」


ようやく安藤先輩から解放されたミルキーがげんなりと溜息ためいきをついた。


「恋愛って大変なんだね。

まぁ、私はリアルで1度もモテたことないし、

将来はお金持ちのゲイの人と偽装結婚して、

毎日ニヤニヤするのが夢だからいいけど。」


P’デコがミルキーの肩をお疲れと叩いた。


リカちゃんとレオは最新の#本橋高木の写真を見ながら別の溜息ためいきをついていた。


「美しい!」


「チリになってこの周りを舞っていたい♪」


高木君は本橋先輩の仲間グループに入ったらしく、

みんなで出掛けている姿がよく見られた。


腐の者たちはミルキーと安藤先輩の事があってから、

今の本橋先輩には仲間内で遊ぶのが気楽なんだろうなと思うようになっていたので、

安藤先輩にもこのことは内緒ないしょにしていた。


腐の者たちは相変わらず#本橋高木の2ショットだけを集め、

「リアルBL!」と呼んで勝手に応援しているだけで幸せだった。


それよりも、

リカちゃんがタイ語が可愛いから習いたいと両親に話したら、

タイにも支社を持つリカちゃんのパパが関心を示し、

タイ語の家庭教師を雇うことにしてくれて、

みんなも一緒に授業を受けさせてくれることになったので、

腐の者たちは#本橋高木どころではなく喜んでいた。


しかもリカちゃんは、

候補者の中からかりなく腐女子ふじょしのタイ人女性を選んでいたので、

テキストが名作タイBLドラマの中からの抜擢ばってきだとか、

本国でしか知られてないタイBLノベルだとかだったりして、

週1の授業は非常に楽しいものとなっていた。


「私、将来は背が高くてガタイの良いイケメンと結婚して、

子供にタイ語と英語習わせてタイに行かせてBLスターにする!」


タイ語が上達してきたミルキーがそう言った。


「ミルキーの遺伝子ならすごいイケメン生まれそうだよねぇ。

むしろタイのBL男優さんと結婚しちゃいなよ!

リカ、応援するっ!」


リカちゃんはさも嬉しそうにミルキーの手を取ってぶんぶん振り回した。


「僕も!

~ってか、

僕、タイ語マスターしてオーディション受けようかな?

2次成長が進んじゃったら、

タイBL男優さんたちみたく格好良く筋肉つけるのもアリと思えてきた。」


ミルキーと同じく、

タイBL男優たちの肉体美にすっかりやられたレオが、

ちょっと照れ臭そうにそう言った。


「わー!レオなら可愛いままでも男らしくなっても需要じゅようあるかも!

デビューしたら肌色パンツで躊躇ない演技してね!」


リカちゃんとミルキーが口をそろえてテンション高くそう言った。


「もちろんだよ!相手が嫌がるほど本気でガッツリ行く!」


「マネージメントはこのP’デコが引き受けよう!

必要な資格取得しかくしゅとくが難しかろうと、

私はBLのためならどんな努力もしまない!

でもさ、どうせならみんなで組んで、

タイに負けないBLドラマ作るエージェンシーを日本で立ち上げたいよね。

世界中のLGBTQ+腐女子ふじょしという顧客こきゃく特化とっかしたネットTV作るとかさ。」


P'デコの脳内はすでにワールドワイドな腐に広がっていた。


「うわー、それすごい!

せっかく美術部なんだし、

将来のために

グラフィックデザインとか、

レイアウトの勉強やるのも

良さそうだよね!」


腐の者たちは明るくよこしまな腐の未来に頭をかせていた。


そして、予期せず、腐の者たちが歓喜する出来事が起きた。


卒業式の日、

P'デコが満面の笑みを浮かべ、

興奮こうふんもあらわにスマホを振り振り美術部に飛び込んできた。


「ムン!BLの神様が降臨こうりんした!ありがとうっこの世界っ!」


P'デコはスマホを両手に挟み、

美術部の床に豊満ほうまんボディーをバウンドさせながら、

スライディングするように膝を折り、

感極かんきわまったよういのりのポーズでしばし黙祷もくとうした。


「なになに?どうしたの?」


腐の者たちはP'デコを取り囲んだ。


「私、1年代表で3年の卒業生代表に花束渡す役目だったじゃん?」


「うんうん。」


「でね、

卒業式終わって各年代表たちで片付けしてる時BLの神様が下りてきたの!

さぁ見よ!これを見よ!

BLの神様が私を普段使わない倉庫に行かせる用事をくれましたあああああああ!」


P'デコの携帯には、

取り壊しが決まった旧校舎の裏手の目立たない倉庫の桜の木の下で、

桜の花びらが舞い散る中、

第2ボタンを外して高木君に渡し、

こっそりキスしている本橋先輩の動画があった。


「きゃあああああああああああああああああああああああああ。」


腐の者たちは黄色い悲鳴ひめいを上げた。


「なにこの美しい世界?リアル?リアルなの?」


「アロイ!アロイだよ!」


「P'デコの腐の神様マジスゲー!」


「この花びらになって2人を包みたい!」


「てか、この2人くっつけたのってうちら?」


「うんうん、切っ掛けはうちらだね!」


「じゃぁうちら、腐のBLキューピッドじゃん!」


第2ボタンと卒業式でのキス~と言うBLの王道に、

腐の者たちはこの「リアルBL」が収まったP'デコの携帯を御神体ごしんたいのようにあがまつり、

4人だけの秘密の宝物としてシェアして鍵をかけた。


今、この4人の腐の者たちにとっては、

リアルこそがパステルカラーの虹色の美しい世界だった。


それは、腐の者たちだけが知っていればいい、

登場人物全員ゲイ設定の甘い学園BLモノの青春の1ページなのだった。

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妄想世界の腐女子たち☆The BLドリーマーズ 菜園絵夢 @ph1angw1c1

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