第14話 ライガントパイニー


アッと言う間にもうじき1年。


すっかり英字幕になれてしまった腐の者たちは、

話題になっている世界中のBLドラマを難無なんなく見て回れるようになっていて、

各々おのおのも自宅で好きなBLの鑑賞かんしょうや、

手分けして各国のBL情報のチェックをするようになっていた。


ミルキーはその英語力を生かしたSNSプロモを作ったりしていたので、

海外にも名が知られるようになり、ますますファンが増え、

外国資本の雑誌のモデルに採用されたりもしてきていた。


「P'デコが言う通り、タイと台湾タイワンは頑張ってる。

とくにタイがすごい。

ようやく意味が解って来たわぁ。

英字幕最高!」


タイのBL供給量きょうきゅうりょうは素晴らしく、

合間あいまをおかずに新作が出るし、

捜せば必ず好みのストーリーが見つかった。


そしていつしか腐の者達はよく耳にする幾つかのタイ語を覚えてしまった。


「ライガントパイニー」


タイドラマの冒頭に必ずと言っていい程出る”対象年齢たいしょうねんれい”を示すお約束の表示言葉で、

腐の者たちが見るのは+13とか+18なので、

表示の色は黄色だった。


腐の者たちの間では、黄色い小物を持ってこの言葉を言うのが流行っていた。


「ライガントパイニー」


レオがキャンパスに描いた黄色い長方形の”ファインアート”の横に立ってそう言って、

みんなの笑いを取っていた時、ミルキーの携帯が鳴った。


「もしもし、あ、安藤先輩♪

お久しぶりです♪

え?あ?マジで?

いやいやいや、

あれからこっちも高木君に振られてそれっきりで…

ああ、はぁ。はい。

いや全然交流ないっす。はい。はい。

はい。もちろんですよ。

何か解ったら連絡します。

多分本当に忙しいんですよ。

気を落とさないで下さいね。」


ただならぬ雰囲気ふんいきに腐の者たちが一斉いっせいにミルキーのもとに集まった。


「なになに?どうしたの?」


「安藤先輩と本橋先輩…別れたんだって…。」


「ええええええええええ!もうじき卒業のこの時期に?」


「そうなんだよ。

なんか、

本橋先輩が進学先が違うのと勉強忙しいから集中したいって

別れ話してきたらしいんだけど、

何かぎなれないシャンプーのにおいがした時あったらしくて、

安藤先輩、またうちのことさぐって来てて。」


腐の者たちはパニクってバタバタし始めた。


「シャンプーって…まさかの浮気?」


「きゃーーーーー!本橋先輩のイメージぶちこわしぃぃ!」


腐の者たちが阿鼻叫喚あびきょうかんとなる中、

P’デコだけはハッと何か思い出したかのように冷静になり、

ニヤニヤしながらスマホをスライドしはじめていた。


「ムン!もしそれが今月5日なら、原因はこれです。BLです!」


そこには船着ふなつきの釣り船の前で船酔ふなよいで盛大に吐いている高木君と、

本橋先輩+先輩とよくつるんでいる数人の男子グループの動画があった。

本橋先輩の服も派手に汚れている。


「P'デコ、毎回だけど、あんたよくこんな動画撮れたね。」


「BLの神様が、私にお婆ちゃんちに行かなきゃなんない用事をくれましたああああああ!」


「でもこの動画だとみんなで普通に釣りにでも行った感じだよね。」


レオの言葉に、P'デコは人差し指でノンノンとする仕草をした。


「そこですよ、皆さん!

そのナチュラルさにだまされちゃいけません!

彼女構えないくらい忙しい人が1年生誘って釣りに行きますか?

こんなに派手に汚れたまま帰れますか?

2人で着替える場所に行くBL展開しかないじゃないですか?」


P'デコの言葉に腐の者たちはいた。


「きゃあああああああああああああああああああああ。」


腐の者たちの脳内は「ライガントパイニー」の黄色い冒頭画面ぼうとうがめんとともに、

再び#本橋高木のBLの世界に移行いこうした。


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