第11話 腐女子的BBQ

ある日、恐れていた事態じたいが起きた。


高木君が美術部にやって来たのだ。


正確に言うと安藤先輩と本橋先輩に連れられてやって来た高木君が、

ミルキーに言った。


「あの…キミ、僕のこと好きなんだって?」


多分ミルキーに疑いを持っている安藤先輩が強硬手段きょうこうしゅだんに出たのだった。


「あ、あ~あ。そのこと…ね?」


ミルキーは張り付いた笑顔で、

P'デコと腕を組んでP’デコの豊満ほうまんな体に隠れるように、

どうすればいいかの助けを求めた。


「ミルキー、見た目に反してシャイなんです。

それに事務所が恋愛禁止だから、

もしデートとかのお誘いなら、2人だけじゃなくて

先輩たちもあわせて私ら全員でどこか行きましょう!」


P'デコが堂々と答えた。


「ちょっ」


驚いてP'デコを止めようとしたミルキーを、

P'デコは密かに小突き、

任せて、とでも言うように、こっそり親指を立てた。


「先輩たちも協力してくださいよー。

ミルキー、常に人目気にしなきゃなんないんですぅ―。

ごまかすのに人数いた方が良いんですぅ―。

携帯とかも事務所のチェックあるんで、

男の子との個人的なチャットとかも無理ですし―。」


ちなみにミルキーの事務所にはそんなチェックもないし、

恋愛禁止でもなかったが、

一見優等生いっけんゆうとうせいでしかないP’デコが事務所がらみと言えば、

みんなそんなもんなのかなと納得なっとくせざるをなかった。


高木君は何だか残念そうな顔をしながらも、同意し、

日曜にみんなで近所のBBQバーベキュー場でBBQをすることにして、

待ち合わせ時間などの詳細を相談してから去って行った。


「P'デコ、この展開はまずくない?

私、高木君の事何とも思ってないから、

行動ですぐバレそう!」


不安そうなミルキーにP'デコが強い口調くちょうで言った。


「ミルキー、

何を言ってるんですか!

これはうちらみんなで

本橋先輩と高木君のイチャイチャを

間近で見るチャンスなんですよ!」


P'デコはニヤニヤしていた。


「え?どーゆーこと?」


「ミルキーはさ、

職業柄、いつどこで写真撮られるか解らないから、

女の子とだけ一緒にいることにしてるとか言って、

当日は安藤先輩にピッタリ張り付いてなよ。

安藤先輩、ミルキーのこと疑ってる部分もあるから、

ミルキーがくっついてれば安心するだろうしさ。

後はお解りですね?」


腐の者たちはようやくP'デコの意図いとに気付いた。


「そうかぁ!

そうしてれば自然に、

本橋先輩と高木君が余ることになるね!

ダメだ、リカ、ニヤニヤが止まらない!」


実際、みんなでのBBQは腐の者たちの至福の時となった。


「安藤先輩~、ミルキー、恥ずかしくて話せな~い。」


ミルキーは安藤先輩に張り付き、

腐の者たちは本橋先輩と高木君に仕事を与えないように、

テキパキ動いて仕度をし、心の中で《アロイ!》と叫びながら、

手持無沙汰てもちぶさたでブラブラする2人の姿を、

チラチラ目で追ってBBQを進めた。


「本橋先輩と高木君、一緒に座ってる!あの椅子になりたい!」


「一緒に笑って話してる!笑顔尊い!あの足元の芝生になりたい!」


腐の者たちは小声でささやき合った。


調理担当は料理好きなリカちゃんと、

リカちゃん大好きなレオの独壇場どくだんじょうで、

2人の乙女ぶり&仲良しぶりは、他者たしゃが入り込む余地がなかった。


時々、本橋先輩が安藤先輩と二人になりたがりそうだったが、

ミルキーがそれを止めた。


「安藤先輩はミルキーのでーす♪仲良しなんだもんねー♪」


それですごすご引き下がる本橋先輩を見て、

安藤先輩はちょっと複雑そうな表情だったが、

明らかにミルキーを警戒して手元から離すまいともしていたので、

何を言ってもやっても許される美人のミルキーは得だと、

他の腐の者たちは思った。


私服しふくきみって可愛いね。好きなブランドとかある?」


「ありがとう。うちの服、

ほぼ雑誌の撮影の時、気に入ったの買い取っちゃうんだぁ。」


「そうなんだ。えっと…」


「あ、リカちゃーん、お肉焼けたー?」


高木君は、ミルキーとたわいない話をしただけで話が続かずに終わって、

ほとんどの時間を本橋先輩と何か話したり、ふざけあったりして過ごしていた。


何かの虫がついたのか、

パニくる高木君を本橋先輩がなだめている姿まで見られた。


「こんなに間近で2人のイチャイチャを見れるなんて尊い!」


「時間止めたい!ゴミすら美しく見える世界!」


「#本橋高木!#本橋高木!アローイ!」


腐の者たちはささやき合い、

こっそり写真や動画を撮りまくり、

何の事ないこの日常の風景を、至福しふくの脳内BLの世界、

#本橋高木の休日デートに変換して堪能たんのうした。


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