第4話 世界を目指す腐女子たち

P'デコはガチぜいで、

世界中のあらゆるBL情報を把握はあくし、

あらゆるジャンルを網羅もうらしていて、

たまに皆に引かれるBL愛の持ち主だった。


リカちゃんとレオは乙女だったので、

とにかく甘くて軽いBL、主に学園モノが好きで、

完全に2次の世界に浸っていた。


ミルキーは現代的で、

ややリアルな、

テンポの良いBLを好んでいた。


「うわ~。

プールがある家、初めて見たよ!

さすが小早川財閥こばやかわざいばつ!」


「夏になったら泳ごうね!。

それまではリカの部屋でタイBL観ようよ♪」


休日、

4人はP'デコのおススメのタイドラマを見るのに、

リカちゃんの家に集結しゅうけつしていた。


最新機器を導入してリノベーションしたという、

明治に建てられた洋館を2階に進み、

通されたリカちゃんの部屋は、みんなの予想を裏切らず、

紫、ピンク、黒の姫系で統一されており、

広い部屋の奥には個人用バスルームや、

防音のピアノ練習室けんホームシシアターの別室まであった。


「P'デコ、おススメ教えて?

有料のでもかまわないよ♪」


P'デコはリュックを開き、

タイトルとあらすじとオススメ度がびっしり書かれたノートを出してきた。


「こんなにあるの?」


「これでも1冊にまとめるのに苦労した。

1ページ目のドラマから見て欲しい。」


そして何故なぜか単語帳と英語辞書も数冊出してきた。


「P'デコ…これってまさか…」


P'デコは得意満面とくいまんめん不敵ふてきな笑みを浮かべた。


「このドラマは最近出たばかりでマイナーなので英字幕えいじまくしかない。

そして世界は日本語字幕より英字幕なんだよ!

英語おぼえれば日本語訳されてないどの国のBLドラマも大概たいがい見れる。

しかも最新のBLドラマが無料でだ!」


P'デコはVPN(仮想プライベートネットワーク)と言うモノを使ってPCを現地接続し、これで英語を憶えたらしい。

(リカちゃんちのPCにはすでにそれが装備されていたので、手間無しだった。)


ほとんどの海外BLは中~高生英語で足りるので、

シリース2~3本見終わる頃にはよく使う言い回しを憶え、

その後驚くほど早く”読める”ようになるらしい。


読める様になったら、

段々”聞き取り”も出来るようになっていって、

そのうち試験問題は楽勝らくしょうになるらしい。


「ただ英字幕のBLを見るだけで、

ワールドなBLの世界が把握はあくできて、

英語の成績上がるんだよ?

アロイじゃない?」


P'デコは笑いながらノートや辞書類をパンパンと叩いた。


「えー!英語苦手だし無理無理!」


腐の者たちはいきなりのハードルの高さに抵抗ていこうした。


しかし、P'デコが有無を言わせず、

みんなの座るソファーの前のノートパソコンを操作そうさし、

1ページ目のリストのドラマを再生し始めた時、

腐の者たちの目はくぎ付けになった。


P'デコが第1リストにあげたドラマは、

皆がほぼ読めるほどの低難易度ていなんいどの短いセリフで構成こうせいされており、

しかも読めない単語があっても話のすじが見える、

切ない純愛系感動ものBL+イケメンしか出てこない世界だったのだ。


「I have toって憶えてる!」


「I would like ってなんだっけ?」


「You mayって丁寧語ていねいごだよね?」


「As long as 結構けっこう使うねぇ。」


ドラマが進むにつれ、

腐の者たちはボロボロ涙を流し、

必死でP'デコの用意した単語帳や英辞書をあさっていた。


「P'デコ!ズルル…なんて事してくれんのよ!エッエェウ。」


「いきなりこんなの出して来るなんて…グズン…卑怯ひきょうだよ!」


「これはもう…見ずにいられないじゃない!ワーンワーン。」


皆が涙で辞書が見えなくなる頃合いを見計みはからい、

P'デコは用意周到よういしゅうとうに自らが翻訳ほんやくしたノートを出してきて、

パソコンの横でセリフごとに翻訳ほんやくノートを紙芝居のようにめくった。


P'デコは腐の者たちを解っていた。


むしろタイが腐の者たちを解かっていた。


ドラマを見終わった後、

P'デコが主演男優の1人がライブトーク中継ちゅうけいをしているのを見つけ、

みんなで飛んだ。


その男優は聞き取りやすい英語で、

ユーザーに向けて来てくれてありがとう的な言葉を繰り返していて、

たまにドラマの裏話うらばなしなどを話してくれたので、

腐の者たちはそのタイムリーなライブ感に感動し、

みんなすっかりタイぬまに嵌っていた。


「リカちゃん、お友達と英語のお勉強?」


ジュースとケーキを持ったお手伝いさん達とともに、

部屋に挨拶あいさつに来たリカちゃんのママが、

パソコン上でBL男優がBLドラマの話をしているとも知らず、

ブツブツと英単語を口にして調べる一同に微笑ほほえみかけた。


「ママ!リカたち、世界を目指すことにした!」


リカちゃんは興奮こうふん冷めやらぬ声で叫んだ。


「あらまぁ、

リカちゃん、

お勉強のやる気がでる良いお友達ができて良かったわね。

パパもきっと喜ぶわ♪

みなさん、ごゆっくりね。

よければお夕飯もご一緒にどうぞ。」


英語が解らない典型的な日本人のリカちゃんのママとお手伝いさん達は、

オヤツにも手を付けず、

パソコンの前に折り重なるように夢中でひしめき合う腐の者たちの様子ようすを、

さぞや仲良しで向上心のある友達たちなのだろうと微笑ほほえましそうに見ながら、上機嫌じょうきげんでぞろぞろと部屋を後にした。


Good jobグッジョブ!」


Coolクール!」


Fabulousファビュラス!」


You are so hotユー・アー・ソー・ホット!」


その時腐の者たちは、

ファンサービスにシャツを脱いでくれたBL男優さんの姿に歓喜かんきし、

各々おのおのパソコンに向かって知ってる英語をまくしたてていたのだった。

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