第3話 パステルカラーの虹色世界

義務的に描かれた”ファインアート”が、

絵の具の乾きを待っている美術部の部室。


「2次成長を遅らせるには、成長ホルモンを阻害そがいする行動をとればいい。

夜更かしと寝不足、ダイエットが効果的だから、

無意識でそれしちゃってる男子は背が低くて声が高いとか、

女子なら貧乳になる確率が上がるんだよ。」


P'デコは2次成長を気にするレオにそう言って、

スマホで成長ホルモンに関するページを開いて見せた。


「へー、じゃぁ僕、

ホルモン注射が出来るようになるまで、

その線でいってみるね。」


レオは性の不一致に悩んでいる”男の”だったので、

3人からは何かと気にかけてもらっていた。


「きゃああああああああああああ!

”君との別れの夏休み”が映画化決定だって!」


スマホで西極砂絵さいごくさえの公式ページをチェックしていたリカちゃんが叫んだ。


「あ~、あの話、甘くて軽くて大衆受けしそうだもんねぇ。

リカちゃんもレオもそう言う系好きだよね?

配役は…あ~、このアイドルグループの子たちが出るんだ?

ってことは、原作よりもっとストーリー軽くなりそうだね。」


ミルキーがリカちゃんの携帯をのぞき込んで言った。


「BLは世界中のLGBTQ+腐女子ふじょしという大きなマーケティングがあるから、

成功すれば一躍いちやく世界のスターなんだし、

できるだけ良い人材を選んで予算もかけて、

イヤイヤ度のない熱演できる男優さんを用意してほしい。

私、BL映像に関しては、台湾タイワンやタイが頑張ってると思う。

世界にYAOIやおいの言葉を広めた元祖・日本にはもっと頑張ってほしい。」


P'デコが指でメガネをくいっと上げて言った。


P'ピーデコのP'ピーってタイの敬称からだよね?

アタシ、P'デコがよく言ってるムンが、

喧嘩腰けんかごしか親しい間でしか使わない”お前”って意味なのと、

アロイが”美味しい”って意味なの覚えちゃったよ。」


ミルキーがそう言って笑った。


「タイドラマ良いよ、タイドラマ。

同じアジアの血を感じさせる親近感+エキゾチックさもあってさ。

タイは私ら腐女子のニーズをよく解ってるし、

あの堂々としたドラマ中のスポンサーの商品押しがたまらない。

最近は躊躇ちゅうちょない演技をしてくれる、

体格良いイケメンが出てくる率高いから注目だよ。」


P'デコは普段は寡黙かもくだが、

BLに関してだけは饒舌じょうぜつに熱く語る人だった。


「へー、

リカの好きな甘いBLある?」


リカちゃんの問いにP'デコの目が輝いた。


「あるある、いっぱいある。

むしろほとんどが甘いBL!

それに観光国だからロケ地とかが豪華なんだよ。

低予算ドラマでも、

プール付きの家とか普通に出てくる。

何故なぜかみんなギターけるし、

お笑い要素ブッ込んでくるのも実にいい。」


P'デコは腕を組み、うんうんとうなずきながら答えた。


「そうなんだ?(笑)

P'デコ、おすすめドラマあったら教えて♪

プール付きの家がいいなら、

リカんちにもプールあるから今度おいでよ♪

みんなで一緒にタイドラマ観よ?」


「おおおおおお。」


腐の者たちはザワついた。


”プール付きの家でタイドラマ”と言うのは、

実に魅力的な言葉だった。


「でもさぁ、

海外のって言うとポルノみたいなののイメージある。

アタシ、あれは何か違うと思う!」


「キャー!

それは何か違うううううううううううう!」


ミルキーの発言に、

乙女なリカちゃんとレオが口をそろえて叫んだ。


「私はポルノでも大丈夫だけど、みんなの気持ちは解る。」


P'デコがボソッと言った。


「リアル・ゲイの世界が原色の虹色で、

ゲイ・ポルノの世界が蛍光色けいこうしょくの虹色だとすると、

BLはパステルカラーの虹色の世界なんだよ。

いくらきわどくに見えるシーンでも、

私らはBL男優さん達が、

肌色パンツかマイクロビキニをいてるのを知ってる。

その分、あくまでフィクションで、

夢とロマンという肌色パンツにぼやかされた優しい世界なんだよ。」


腐の者たちは、

今まで漠然としていたゲイ・ポルノとBLの境界線きょうかいせんがそこにあったのに気付き、

みょう納得なっとくした。

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